研究課題/領域番号 |
18K03401
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分12030:数学基礎関連
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研究機関 | 学習院大学 (2020-2022) 昭和大学 (2018-2019) |
研究代表者 |
樋口 雄介 学習院大学, 理学部, 教授 (20286842)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2019年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2018年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 離散大域解析 / グラフ理論 / スペクトル幾何 / ラプラシアン / 酔歩 / 状態密度函数 / 量子ウォーク / 脳内辞書ネットワーク / 離散スペクトル幾何 / 離散ラプラシアン |
研究実績の概要 |
グラフ上の各種作用素のスペクトルとグラフの持つ離散幾何構造の関係性の解明を主題としたものが当該研究課題であり,今年度の実績としては1)古典酔歩に付随した作用素のtwisted versionのスペクトルの対称性と有限グラフのサイクル構造,および2)量子ウォークの定常状態と散乱対象となる有限グラフが持つ特殊な全域部分グラフの分布,の解明を挙げておく. 1)については,既存の「磁場つきラプラシアン」として定義されているものと本質的に同じである「エルミート隣接行列」というグラフによって定まる古典的酔歩に付随した作用素に対して(「隣接行列」の要素を複素化した対称行列),久保田氏および瀬川氏(横国大)とともに,エルミート隣接行列を構成する複素数パラメータが円分数であるときは,2部グラフではないがスペクトルが対称になるグラフを構成し,あわせてそのグラフの族の最適性をも示した.一方で,複素数パラメータが代数的数であるときは,2部グラフでなければスペクトルは対称にならないことも示した.それに対して量子酔歩に付随したモデルを扱った2)は,時刻毎に固定した大きさ1の複素数倍した波を入射するという量子散乱モデルを考察対象とした瀬川氏(横国大)との共同研究である.今回の一般の複素数に対する解析では,固定した複素数が1もしくは-1のときの以前の我々の結果を包含しつつ,解析的には特異な条件となる各所を美しく排除することに成功し,それにより量子散乱モデルの入射の個数および周波数と,定常状態における内部エネルギーの関連性を示すことが出来た. 以上はいわば基礎面の実績であるが,加えて実験物理の研究者である水谷氏(横国大)松岡氏(広工大)らと量子グラフの定常状態の光回路への実装を目標とした“光量子ウォーク”の設計と定常状態の性質の解析にも成功し,これは量子ウォークの応用への第一歩の実績となったことも強調しておく.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
一言で言えば,2020年度の遅れが現状にも波及している.つまり2020年度当初には,年度後半にはCOVID-19は終息しているという楽観的な目測の下で,いわば終息を待つことに専念した形となり,理論構築も応用面の発展も計算機での実験もどれも比較的中途半端になってしまった.2021年度はその反省から,理論構築が主体である本研究の助力となる計算機実験の環境構築にいささか多くの時間を割いたが,2022年度はCOVID-19下での社会活動の状況の改善に伴って,少しずつ対面の研究集会や研究打合せも復活して,議論やアイディアの入手ができるようになった.とはいえ,従来通りのような活発な対面での研究打合せの頻度には復活していないが,一方では以前では存在しなかった遠隔手段による打合せなども慣れてきたため,それなりに集中かつ実りのある議論が重ねられたといえる. ただし,対面での研究会参加や研究打合せの大幅な減少は,得られる情報や知見の質の変化を意味しており,例えば,応用面への挑戦に関する準備は2022年度も滞ったままとなってしまっている.つまり「脳内辞書ネットワーク」の数学的アプローチにむけた実験を本格的に行える環境には戻っていないため,実験の実装に関する具体的な計画にはとりたてて進展はない. 全体を総じてみると,やはり全研究期間での総合的な達成目標には達しているとはいえない.ただし,古典酔歩に絡んだ磁場つき作用素での新しい知見や,量子酔歩の応答問題とグラフの幾何構造の相関の解析における新しい知見などが得られたことからも理論面の構築は着実に前進している.プラス面とマイナス面を考慮した結果としては,「やや遅れ」とするのが適切と考える.
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今後の研究の推進方策 |
基本的な研究推進方策は従来と変わることはなく,当該研究を発展させるために,数学に留まらない多彩な分野の研究者との交流から,新たな刺激や情報の入手することを行う.そのために研究集会や研究打合せに参加していくこととなるが,ただし従前のような活発は出張が出来る状態に完全に戻るまで(つまりCOVID-19があらゆる意味で終息するまで)は,Zoomなどの遠隔ツールを併用した形態で維持していく.また,2022年度に比較的高性能なPCが導入できたので,その能力を有効に使うべく,下準備のプログラムの実装や改良そして周辺機器の充実を図りつつ,巨大なグラフ上での作用素のスペクトル(もしくは共鳴状態)の本格的な計算を行っていくつもりである.なおプログラムの実装においては,必要になったときには学生などの協力を仰ぐことも考えている. アイディアや計算機による結果を用いて,古典酔歩と量子酔歩のスペクトル解析を前進させていくことを考えている.両酔歩の関連性は様々な舞台において表現されてきているが,そもそもある類の“量子酔歩”は“古典酔歩”の共鳴状態を全面に含んだ摂動作用素であろう,という,我々の予想の是非をはっきりさせることで,両酔歩の関連性にひとつの決着がつけられると信じている.過年度までの研究の蓄積により,少しずつ状況証拠が揃ってきたところであるので,より具体的には,量子酔歩の応答問題モデル(有限グラフを対象物とした散乱問題)における定常状態と,古典酔歩にまつわる各種作用素および対象物のもつ幾何量との関連性を確立させていく.そこでは量子酔歩と古典酔歩の時間発展を表す作用素達の間に見られる関連から,古典酔歩の共鳴状態が量子酔歩の波動性から捉えられると信じている.
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