研究課題/領域番号 |
18K03446
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 (2019-2022) 東京大学 (2018) |
研究代表者 |
古川 俊輔 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (50647716)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2019年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2018年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 物性理論 / トポロジカル秩序 / 冷却原子系 / 量子ホール効果 / 磁性 / フラストレーション / 量子スピン液体 / 量子エンタングルメント / 人工ゲージ場 / ボースアインシュタイン凝縮体 / 渦格子 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、対称性により多様化したトポロジカル相(symmetry enriched topological相; SET相)について、具体例の構築、実現法の提案、情報論的・操作論的特徴づけを行うことを目的としている。2022年度の成果は以下の2点である。 [1] XXZ異方性とフラストレーションを有するスピン1/2梯子模型において、対称性で保護されたトポロジカル相(SPT相)と種々の秩序相が競合する豊かな相図が現れることを、有効場の理論および数値解析により示し、論文として発表した。この研究は、4体相互作用を有するXXZ梯子模型に関するこれまでの成果から着想を得て行ったものである。梯子上で桁と対角線上の2体相互作用の比が2:1に近いとき、強いフラストレーションが生じ、繰り込み群の流れの中で現れる小さな実効的ダイマー間引力が相対的に重要な役割を果たす。その結果、2体相互作用のみの模型で、4体相互作用模型と同様の物理が起こることを示し、多彩な相図を得ることができた。特に、rung singlet (RS)状態、Haldane状態の捻り対応物が比較的小さな異方性のもとで現れることを示し、それらをトポロジカル指数によって特徴づけた。これは、梯子上の多様なSPT相の研究を、磁性体や冷却原子系における現実的なセットアップと結びつける成果である。 [2] XXZ異方性と4体リング交換相互作用を有するスピン1/2梯子模型の基底状態相図を解析した。リング交換相互作用が強い領域において、SPT相とカイラル秩序相が競合する多彩な相図が現れることを有効場の理論と双対変換により論じ、厳密対角化計算によりそれを支持する結果を得た。これは、2021年までのダイマー型の4体相互作用模型に関する成果を、さらに多彩な相図が現れるよう拡張する研究である。この成果について、国際研究会でポスター発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の実施計画においては、(1)人工磁場中のn成分Bose気体における量子ホール状態、(2)結晶対称性により多様化したトポロジカル相、(3)SET相の情報論的・操作論的基礎の構築を具体的課題として挙げている。 スピン梯子模型は、RS状態、Haldane状態と秩序相の競合について、これまで膨大な研究が行われていた。一方、RS状態、Haldane状態の捻り対応物については少数の先行研究はあったものの、それらがどのようなパラメータ領域に現れ、他の相とどう競合するかについてあまり研究が行われていなかった。我々が2020から2022年度に発表した3編の論文により、過去に研究されていた4体相互作用模型やフラストレート模型からわずかにパラメータ空間を拡張することでこれらの捻り状態が現れること、秩序相との競合による豊かな相図が形成されることが明らかになった。特に、2022年のフラストレート梯子模型に関する成果は、磁性体や冷却原子系などでの実現が期待されるものである。また、2本の独立な鎖から出発する有効場の理論により、これらの状態が現れる条件を系統的に論じることができた。2つの捻り状態は、梯子の結晶対称性を反映したSPT状態であり、その検出にエンタングルメントの視点を用いていることから、(2)、(3)の課題の応用例となるものである。加えて、2022年度から進行する、4体リング交換相互作用を有する梯子模型の研究では、SPT相とカイラル秩序相の競合によりさらに多彩な相図が得られることが明らかになった。この研究を深めることで、(2)、(3)の課題をさらに推進することができると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度から開始した、XXZ異方性と4体リング交換相互作用を有するスピン1/2梯子模型の基底状態相図についての研究を完成させる。これまでに、有効場の理論と双対変換を用いた解析により、異方性の弱い領域の相図の定性的な理解が得られている。桁上のイジング相互作用が強い極限からの強結合展開を行うことで、異方性の強い領域の相図を導く。さらに行列積状態による数値解析を行うことで、詳細な相図を作成するとともに、SPT相のトポロジカル指数による特徴づけを行う。これらの一連の結果を論文としてまとめる。 2018年度から取り組んでいるn成分Bose気体の量子ホール状態について、トポロジカルな場の理論との比較検討や端状態の安定性に関する解析を加えた上で論文を完成させる。 2021年度までの二成分BECの渦格子の研究で得た知見を、光格子中の冷却原子系に応用する。具体的にはトポロジカルHaldane模型を二成分ボソン系に拡張した模型を考える。ゲージ場が二成分に対して平行か反平行かで成分間エンタングルメントや凝縮率にどのような違いが現れるかをBogoliubov理論により調べる。その結果をもとに、二成分Haldane-Bose-Hubbard模型における量子(スピン)ホール状態に関する先行研究の結果の解釈を試みる。このような研究を通して、ゲージ場中の量子多体系に関するより一般的な法則を見出す。
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