研究課題/領域番号 |
18K03446
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 (2019-2023) 東京大学 (2018) |
研究代表者 |
古川 俊輔 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (50647716)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2019年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2018年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 物性理論 / トポロジカル秩序 / 冷却原子系 / 量子ホール効果 / 磁性 / フラストレーション / 量子スピン液体 / 量子エンタングルメント / 人工ゲージ場 / ボースアインシュタイン凝縮体 / 渦格子 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、対称性により多様化したトポロジカル相(symmetry enriched topological相; SET相)について、具体例の構築、実現法の提案、情報論的・操作論的特徴づけを行うことを目的としている。2023年度の成果は以下の2点である。 [1]カイラリティ型4体相互作用を有するスピン1/2梯子XXZ模型において、対称性で保護されたトポロジカル相(SPT相)と種々の秩序相が競合する豊かな相図が現れることを有効場の理論および数値解析から示し、論文として発表した。この研究は、2022年度に解析していた4体リング交換相互作用模型からエッセンスを抽出し、詳細に解析したものである。また、2020、2021年度に発表した、ダイマー型4体相互作用を有する梯子XXZ模型に関する成果から着想を得たものでもあり、双対性を利用することでより多彩な相図を得ることに成功した。特に、互いに双対な2つのSPT相が現れ、そのいずれもがHaldane状態のある種の捻り対応物とみなせるが、それらが時間反転対称性を課すもとで明確に区別されることをトポロジカル指数の計算から示した。また、これらの間の相転移の属する普遍クラスを、ハードコアボソン描像から論じ、数値計算において検証した。 [2]一次元スピン鎖におけるトポロジカル相転移を量子コンピュータで観測するための研究を行った。基底状態が次元2の行列積状態で記述される場合について、実機によりストリング相関を計測し、トポロジカル相転移を観測した先行研究がある。しかし、実機のノイズの影響のために、相関の計測値は理論値から大きくずれていた。そこで、近年発展する量子誤り軽減法の中から仮想蒸留法を適用し、ノイズのあるもとでもストリング相関を精度良く計測できるかをシミュレーションにより検証した。この成果について、複数の国際研究会において口頭・ポスター発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の実施計画においては、(1)人工磁場中のn成分Bose気体における量子ホール状態、(2)結晶対称性により多様化したトポロジカル相、(3)SET相の情報論的・操作論的基礎の構築を具体的課題として挙げている。 スピン梯子模型は、RS状態、Haldane状態と秩序相の競合について、これまで膨大な研究が行われていた。一方、RS状態、Haldane状態の捻り対応物については少数の先行研究はあったものの、それらがどのようなパラメータ領域に現れ、他の相とどう競合するかについてあまり研究が行われていなかった。我々が2020から2023年度に発表した4編の論文により、過去に研究されていた4体相互作用模型やフラストレート模型からわずかにパラメータ空間を拡張することでこれらの捻り状態が現れること、秩序相との競合による豊かな相図が形成されることが明らかになった。特に、2023年度のカイラリティ型4体相互作用を有する模型に関する成果では、双対性を利用することで、それまでに得られていたものよりもより多彩な相構造を得ることに成功した。互いに双対な2つのSPT相は、結晶対称性と時間反転対称性で保護された状態であり、その検出にエンタングルメントの視点を用いていることから、(2)、(3)の課題の応用例となるものである。加えて、2023年度から進行する、量子コンピュータでの誤り抑制法を用いたストリング相関の計測の研究は、量子制御技術のトポロジカル相研究への応用として、(3)の課題に資するものである。シミュレーションによる検証を進めたのち、クラウド上で利用可能な実機でのストリング相関計測に結び付けたい。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度に取り組んだ、カイラリティ型4体相互作用を有するスピン1/2梯子XXZ模型の研究について、結合定数が正負の場合にパラメータ空間を拡張し、基底状態相図の全貌を解明する。このような拡張された空間においては、2種類の双対変換を利用することができ、有効場の理論と組み合わせることで、相図の概形を解析的に予言する。厳密対格化および密度行列繰り込み群による数値解析を行い、相図を定量的に決定するとともに、相転移の普遍クラスをエンタングルメント・エントロピーにより解析する。これらの一連の結果を論文としてまとめる。 2018年度から取り組んでいるn成分Bose気体の量子ホール状態について、トポロジカルな場の理論との比較検討や端状態の安定性に関する解析を加えた上で論文を完成させる。 2021年度までの二成分BECの渦格子の研究で得た知見を、光格子中の冷却原子系に応用する。具体的にはトポロジカルHaldane模型を二成分ボソン系に拡張した模型を考える。ゲージ場が二成分に対して平行か反平行かで成分間エンタングルメントや凝縮率にどのような違いが現れるかをBogoliubov理論により調べる。その結果をもとに、二成分Haldane-Bose-Hubbard模型における量子(スピン)ホール状態に関する先行研究の結果の解釈を試みる。このような研究を通して、ゲージ場中の量子多体系に関するより一般的な法則を見出す。
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