研究課題/領域番号 |
18K03707
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分16010:天文学関連
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
野沢 貴也 国立天文台, 天文シミュレーションプロジェクト, 特任研究員 (90435975)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2020年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2019年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2018年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | ダスト / 超新星 / ウォルフ-ライエ星 / スパッタリング / 衝撃波 / 星間雲 / プレソーラー粒子 / 原始太陽系星雲 |
研究実績の概要 |
「総合的なダスト形成モデルの構築」に関して、分子形成とダスト形成を整合的に取り扱うダスト形成計算コードの作成を進めた。前年度までに、酸素よりも炭素の存在量が多い炭素過多の環境における炭素質ダストの形成を計算するダスト形成モデルを完成させたが、この計算コードでは酸素過多の環境におけるシリケイトダストの形成が考慮されていなかった。これは、ガス原子を原材料として凝縮するダスト種とSiO分子を原材料として凝縮するシリケイトダストの競合過程の取り扱いが難しいため、ダスト形成・分子形成によるガス原子・ガス分子の存在量の変化に伴うダスト形成過程の急激な変化を追跡することができなかったことによる。そこでガスの存在量に応じて、ダスト形成過程を律速するガス種であるkey speciesを状況に応じて変化するよう計算コードを改良した。これにより、酸素過多の環境でもシリケイトを含む多種のダストの形成が安定して計算できるようになった。 またこの計算コードを基に、超新星放出ガスを模倣した環境でテスト計算を行い、問題なく計算が走り妥当な結果が得られた。そこで、この総合的ダスト形成計算コードを共同研究者に提供し、超新星爆発の様々なモデルにおいて計算が問題なく走るかどうかを確認している段階にある。
その一方で、宇宙固体微粒子の起源を網羅的に明らかにするため、大質量星の進化末期である赤色超巨星やウォルフ-ライエ星の星風中、また銀河中心核からの銀河風中でのダスト形成も調べ上げることを目的としている。これまでの研究で、オイラー法による流体計算に基づいてダスト形成計算を行うことを検討していたが、この場合ダスト形成に必要な流体テスト粒子の密度・温度追跡が非常に難しいことがわかった。そこで、星風・銀河風の密度・温度の時間進化と整合的にダスト形成計算を実行するために、ラグランジュ法による一次元流体計算コードを開発を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当該事業の初年度に、分子形成とダスト形成を整合的に取り扱う“総合的な”ダスト形成計算コードの主要部を構築した。しかし上述したように、このダスト形成計算コードは、酸素よりも炭素の存在量が多い炭素過多な環境のみしか対応しておらず限定的なものであった。そこで本年度において、酸素過多な環境でもダスト形成計算を実行できるように改良したが、ダストのサイズ分布を計算する補足コードの完成には至っておらず、超新星爆発の3次元流体計算に組み込むための「ダスト形成計算モジュール」としての本計算コードの完成まであと一息の段階にある。
また、赤色超巨星やウォルフ-ライエ星の星風中でのダスト形成については、中心天体からの輻射によるダスト粒子へのフィードバック、輻射圧によるダストの駆動とそれに伴うダスト破壊過程が考慮されておらず、分子・ダスト形成過程のみを追う現状のダスト形成計算コードでは十分ではない。現在、ラグランジュ法による流体計算コードの開発を進め、ダスト形成計算コードに上記の物理過程を取り入れる作業を進めているが、残念ながら順調には進んでいない。
その一方で「宇宙固体微粒子の起源」を探るために、本事業二年目よりダストの破壊の観点からも研究を進めている。この研究では、最新の3次元スパッタリング計算コードを駆使して、高温プラズマ中でのスパッタリングによるサブミクロンサイズの宇宙ダストの現実的な破壊効率を導出することを目指す。これまでの研究で、ターゲットとして非晶質炭素ダストに対して計算を進め、スパッタリングの基本的な物理素過程を集約することにより、スパッタリング収率への入射粒子・入射エネルギー依存性を解明した。当該年度ではさらに、スパッタリング収率がターゲットの物質密度によって変化する原因を突き止めた。これらの成果を国際誌で発表するため現在論文を執筆しているが、まだ投稿には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
”総合的な”ダスト形成計算コードの主要部は完成したので、形成されるダストのサイズ分布を導出する補足計算コードをいち早く完成させる。そして、通常の超新星、通常よりも一桁以上爆発のエネルギーが大きい極超新星、中質量星から起こる爆発のエネルギーの小さい電子捕獲型超新星、巨大質量星から起こる電子対生成型超新星など、様々な球対称超新星爆発モデルにダスト形成計算を実行し、形成されるダストのサイズや量の前駆星質量依存性・爆発のエネルギー依存性を明らかにする。そして計算の結果得られたダスト種や形成量に基づいて銀河の化学進化計算を行い、宇宙初期から現在までの元素の進化および星間ダストの進化を明らかにする。
また、本研究で構築した“総合的な”ダスト形成モデルには「分子形成」が考慮されているが、形成された分子によるガスの冷却過程は取り扱っていない。特に、超新星放出ガス中で形成されたCO分子の輝線放射は、ガスの温度を急激に減少させることが知られているため、分子形成計算によって得られたCO分子の量と整合的にガスの冷却を計算するようダスト形成計算コードを改良する。
一方、ここ10年のALMA電波望遠鏡による高空間分解能の観測から、超新星SN 1987Aの放出ガス中に大量の分子やダストが形成されており、またそれらの空間分布が複雑な3次元構造をしていることが明らかにされている。しかし、上記の分子・ダスト形成の理論計算は、球対称の超新星爆発の流体計算結果に対してしか実行しないため、観測結果との比較から分子・ダストの空間分布について議論することができない。そこで、観測された分子・ダストの空間分布を解釈するために、本研究で開発した“総合的な”ダスト形成モデルを「ダスト形成計算モジュール」として3次元超新星爆発の流体計算に組み込み、元素の混合や爆発の非対称性などの3次元効果がダスト形成に与える影響を明らかにする。
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