研究課題/領域番号 |
18K03828
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分17050:地球生命科学関連
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
田上 響 福岡大学, 理学部, 助教 (30578787)
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研究分担者 |
松本 涼子 神奈川県立生命の星・地球博物館, 企画情報部, 学芸員 (00710138)
大橋 智之 北九州市立自然史・歴史博物館, 自然史課, 学芸員 (20584519)
藤原 慎一 名古屋大学, 博物館, 講師 (30571236)
河部 壮一郎 福井県立大学, 恐竜学研究所, 准教授 (50728152)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2019年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2018年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 嘴 / 骨 / 角質 / 地球生命科学 / 古生物学 / 進化 / 比較解剖学 / 組織学 |
研究実績の概要 |
骨と角質からなり、さまざまな形態と機能を持つ脊椎動物のクチバシを、化石分類群でより確からしく復元することを目指し、現生および化石標本を用いて、クチバシの角質部の分布調査を行った。令和4年度は、(1) 蛍光X線分析による、化石ならびに現生標本に分布する元素の調査、(2) CT画像を用いた化石標本の血管神経管形態の三次元復元を実施した。 まず化石を構成する元素を調査する目的で、漸新統杵島層群産骨質歯鳥類化石の下顎標本を対象に、蛍光X線分析を実施した。標本の内部と表面では顕著な差が見られ、骨線維構造の認識できる内部では、現生標本に近いリンとカルシウムの質量%の値が得られた。下顎体の表面では、内部よりマグネシウム、アルミニウム、ケイ素、鉄の割合が高く、杵島層の細粒砂岩に類似する値を示した。現生標本よりも骨質歯鳥類標本で高い値を示した成分は、化石化の過程で標本に取り込まれたと考えられる。対象的に内部では、非生物起源の元素への置換は表面ほど進まなかったことが示された。今後この解析の結果を、紫外線蛍光撮影による、可視光では確認できない骨質部-角質部間の結合組織の分布調査の結果と比較する必要がある。 また、化石に残された血管神経管と骨表面構造との対応関係からクチバシの角質部の分布域を推定するため、前期白亜紀の基盤的角竜類の上顎化石から得たCT画像をもとに、血管神経管形態の三次元復元を行った。その結果、上顎内の血管神経管は、歯列領域ではmain trunkから唇側に向けて太く短い枝がまばらに分岐するのに対し、吻部領域では前方に向けて多岐な広がりを見せるなど、領域間で明らかに形態が異なっていた。吻部領域で見られる複雑な形態パターンは、角質部への栄養供給と関係していると解釈でき、上顎内での血管神経管形態の違いは角質の分布域と対応している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
化石を構成する元素を調査する目的で、漸新統杵島層群産骨質歯鳥類化石の下顎標本を対象に、蛍光X線分析を実施した。標本の内部と表面では顕著な差が見られ、骨線維構造の認識できる内部では、リンとカルシウムの質量%の値が現生標本よりわずかに低いのみであった。下顎体の表面が比較的平滑な領域では、内部よりマグネシウム、アルミニウム、ケイ素、鉄の割合が高く、杵島層の細粒砂岩に類似する値を示した。現生標本よりも骨質歯鳥類標本で高い値を示した成分は、特に表面において、化石化の過程で標本に取り込まれたと考えられる。対象的に内部では、非生物起源の元素への置換は表面ほど進まなかったことが示された。今後この解析の結果を、紫外線蛍光撮影による、可視光では確認できない骨質部-角質部間の結合組織の分布調査の結果と比較する必要がある。 また、化石に残された血管神経管と骨表面構造との対応関係を明らかにすることでクチバシの角質部の分布域を推定するため、前期白亜紀の基盤的角竜類リャオケラトプスの3個体の上顎(吻骨、前上顎骨、上顎骨)におけるCT画像をもとに、立体構築ソフトウェアを用いて血管神経管形態の三次元復元を行った。その結果、上顎内の血管神経管は、獣脚類恐竜などと異なりmain trunkが歯槽の横を通り抜け吻部まで到達すること、獣脚類のような複雑な分岐構造は無いことが確認された。また、歯列領域ではmain trunkから唇側に向けて太く短い枝がまばらに分岐するのに対し、吻部領域では前方に向けて多岐な広がりを見せるなど、領域間で明らかに形態が異なっていることが確認できた。吻部領域で見られる複雑な形態パターンは、角質部への栄養供給と関係していると解釈でき、上顎内での血管神経管形態の違いは角質の分布域と対応している可能性が示唆された。今後、クチバシを持つ現生標本で同様の形態が見られるか確認する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度に引き続き、令和5年度も現生脊椎動物標本の解析に基づく化石標本のクチバシの角質部の分布調査を継続する。まず、令和3年度まで継続してきた、紫外線蛍光撮影による可視光では確認できないクチバシの骨質部-角質部間の結合組織の分布調査は、これまで一定のデータの蓄積が見られるため、今後蛍光X線分析の結果との比較を進める。まだ微量元素の分布に関する解析は不十分であり、紫外線蛍光撮影での色の分布と、蛍光X線分析で得られた元素分布に対応関係があれば、クチバシの角質部の分布に関する知見が得られる可能性がある。また、いずれの手法でも化石標本の解析が現生標本のそれに比べ少ないため、許可を頂ければ化石標本の撮影・分析を実施してゆきたい。その上で現生標本と比較しつつ、角質部の分布を検証する。また化石内部の血管神経管の分布調査は、化石標本の追加の解析と合わせ、現生標本も同様の手法による解析を実施し、結果を比較した上で、角質部の分布調査の可否を検証する。 本報告書の作成時点では、新型コロナウイルスの感染拡大が収まりつつあるが、今後の蔓延状況に合わせ、可能な調査を実施する。現生および古脊椎動物の標本調査のために、国内外の博物館施設を訪問できればよいが、感染の再拡大が起きる場合は、研究代表者ならびに研究分担者の所属機関にて調査を継続する。その上で、本研究課題で得られた成果を総括し、国内外の学会での発表ならびに論文の出版を目指す。
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