研究課題/領域番号 |
18K05297
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分36020:エネルギー関連化学
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
伊勢川 美穂 九州大学, カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所, 学術研究員 (30710488)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2021年度)
|
配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2019年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2018年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
|
キーワード | 量子化学計算 / CO2還元 / 光触媒 / 密度汎関数法 / 電極触媒 / スペクトル / 化学反応メカニズム / 材料設計 / 二酸化炭素削減 / 触媒 / 電子状態 / 反応メカニズム / 電気触媒 / 二酸化炭素の還元 / 電子状態理論 / 金属錯体 / 不均一系触媒 / 反応経路 / 均一系触媒反応 / 反応機構 |
研究実績の概要 |
化石燃料資源の枯渇と人為的な二酸化炭素(CO2)排出により、再生可能でカーボンニュートラル社会に資する燃料開発が必要とされている。太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーは理想的であるが、自然環境に依存し、継続的に利用することが困難な場合がある。一方、化学エネルギー変換は物質の変換であり、環境に左右されない。これまで多くのCO2還元用均一系触媒が開発されてきたが、その中でもビピラジン配位子やその配位子誘導体を含む7族元素(Re、Mn)触媒が広く研究されてきた。最近の研究では、Re, Mn bpy 錯体がTiO2固体表面に担持された場合もしくはMOFに組み込まれた場合も触媒活性を示すことが報告されておりその応用は均一系触媒にとどまらない。一方、6族元素(Cr, Mo, W)を含むCO2還元用均一系触媒の挙動は、Re, Mn bpy錯体に比較して調査が進んでいない。本研究では6族(Cr, Mo, W)のbipyridyl tricarbonyl錯体と7族(Mn, Re)のbipyridyl tricarbonyl錯体について、CO2還元におけるその熱力学、速度論、および電子移動に重要な還元ポテンシャルをDLPNO-CCSD(T)法による電子エネルギーを用いて計算し比較した。結果として以下のことがわかった。(1)6族錯体を2電子還元するには、7族よりも大きな電位が必要である、(2)中間体として生成されるmetallocarboxylic acidはbipyridyl tricarbonyl錯体の第2の電子還元よりも低い電位で還元される、(3)律速段階は第2のプロトン移動であること、(4)律速段階においては、6族のほうが7族よりも低い反応障壁を示しさらに熱力学的にも6族の方が優位であること、(5)COリガンドが6族の方が金属に強く結合しているが、このステップが律速段階になることはないこと。以上の知見はCO2還元のための6族遷移金属を使用した開発に有用である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
6族元素を含む触媒によりCO2還元は申請した段階で計画にはなかったが、最近6族元素を使用した活性度の高いCO2還元錯体が開発され、また遷移金属bpy錯体においてCO2還元における純粋な金属の影響を調査することは重要だと考え研究を遂行した。結果として、中心金属の熱力学、速度論および酸化還元ポテンシャルへの影響は大きいことが明らかにされ、リガンド設計とともに金属の選択の重要性が示唆された。当初の計画にあった、銅光増感剤と鉄触媒による、光照射下でのCO2還元のメカニズムもほぼ明らかにした。光触媒反応は、銅光増感剤の金属-配位子間の電荷移動に特徴づけられる電子励起によって開始される。一重項励起状態と三重項励起状態はエネルギー的、構造的に近いため、系間交差を介した相互変換が容易に起こることが示唆された。長寿命の三重項状態は基底状態よりも大きな酸化電位を示しており、BIHから還元されることが示された。銅錯体の1電子還元種から鉄錯体への電子移動は2つのNCS配位子がキープされた状態で起こるが、第2還元はCO2の結合状態が形成されて初めて可能になる。CO2還元とH2生成の律速段階はそれぞれCO配位子の離脱とプロトン移動反応であることがわかった。また、水中で反応が進行する超分子錯体によるCO2還元についても調査しているが、非常に計算コストが高く遷移状態構造の決定に時間を要している状況である。
|
今後の研究の推進方策 |
有機金属錯体を用いた触媒反応では、中心金属と配位子からなる触媒そのものだけでなく、溶媒、電解質、添加する化学物質など多くの要因によって触媒効率が変化する。これまでの実験は、さまざまな物理的・化学的条件下で行われており、多くの場合、その効率を直接比較することはできない。量子化学計算はより系統的な調査を可能とし、また反応が非常に緩慢な場合においても、触媒反応に影響を及ぼす因子を特定することが可能である。今後は金属bpy錯体が固体電極に組み込まれた場合の触媒活性について調査を遂行する。固定化分子触媒は、効率的な光触媒・電気触媒材料を開発するための1つの有望なアプローチである。強固で効率的かつ安定な不均一系分子触媒を得るためには、表面結合構造、基質-吸着剤相互作用、触媒への光・電界誘起効果などの基礎物理化学的特性を理解することが不可欠である。関連した実験データを参照しながら、量子化学計算の触媒のモデル化を適切に行い、固定化されたbpy錯体の触媒能について調査していく。最近の研究報告によると、固体表面上で単体であるのかもしくは2量体であるかで反応生成物が異なることがわかっている。これら選択性についてもメカニズムを明らかにした上で議論していく。また、CO2還元において触媒の電子還元は触媒活性の要である。多様なアンカー基を検討し固体電極から金属錯体への電子移動のしやすさの検討も重要である。さらに、触媒の純粋金属や金属酸化物への結合強度のfacet依存性などその他複数、触媒能に影響すると予測される因子について検討する。
|