研究課題/領域番号 |
18K05726
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分40010:森林科学関連
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
辻 祥子 京都大学, 農学研究科, 研究員 (90791963)
|
研究分担者 |
石田 厚 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (60343787)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2020年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2019年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2018年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
|
キーワード | 光合成(photosynthesis) / 光阻害(photoinhibition) / 強光ストレス(light stress) / 光防御(photoprotection) / ストレス応答(stress response) / 光合成色素(xanthophyll cycle) / 強光ストレス / 光合成 / 光合成色素 / 光阻害 / キサントフィルサイクル / カロテノイド / ストレス応答 / 乾燥ストレス / 環境応答 / 環境適応 / 種間変異 / 水分生理 / 葉寿命 |
研究実績の概要 |
植物の光合成には光が不可欠だが、葉に照射される光が強すぎると特に光化学系II(PSII)に損傷を与え、光合成活性の低下(光阻害)を引き起こす。植物には過剰な光エネルギー下で光損傷を受けたPSIIを修復する有効な機構があることが知られており、光損傷の速度が修復の速度を上回った場合に光阻害が起こる。この2つの過程は、葉緑体のタンパク質合成を阻害しPSIIの修復を阻害することで別々に解析することが可能である。今年度の実験では、異なる環境下で生育する常緑樹および落葉樹18種の木本植物を用いて、光阻害の機構を検討した。葉に強い光を照射し、リンコマイシン存在下と非存在下でPSII量子収率の変化をクロロフィル蛍光測定でモニターし、光障害(不活性化)の速度定数(kpi)と修復の速度定数(krec)を算出した。その結果、木本植物18種はkpiとkrecのバランスにおいて異なる性質を持ち、過剰な光エネルギーに対処する戦略の違いを示していることが示唆された。木本植物種の生理的・生態的側面について、その生息地や葉の形態的特徴との関連で考察した。 今年度は、まず、PSIIの壊れやすさと修復のしやすさの種間差によって18樹種は3つのタイプに分けることができた。そして、そのそれぞれのタイプは、生息地の特徴をよく反映していた。また、PSIIの修復のしやすさは、窒素含有量と非常に強い相関関係があることがわかった。光阻害によるPSII活性の抑制は、積極的な電子伝達の抑制で活性酸素の発生を防ぐという役割もある可能性が示唆された。これらのことは、複雑な多様な樹木で、かつ、自然変動光下における「光阻害」の実態の一部を明らかにできたもので、これまで草本植物に限られていた光阻害研究に新しい知見を加えることができている。来年度は、複雑な森林生態における光合成が関わる「種の戦略」を植物生理のレベルで明らかにする。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度まで対象としていた生育環境の異なる木本植物12種に加えて、今年度は、対象樹種を落葉樹も加えた18樹種に広げて、常緑樹と落葉樹の比較を行うことができた。また昨年度までの冬の測定に加えて夏のデータをはじめとする2ヶ月おきの季節性データも取得することができた。様々な季節性における光過剰な環境下で起こる光阻害の評価実験を進めることができた。光阻害のメカニズムの解明は、これまで主に草本植物を用いた研究により行われてきたが、今年度は木本植物における光損傷と修復に関する報告を国際光合成学会や、植物生理学会の光合成セッションでいずれも口頭発表にて行うことができた。木本植物の多樹種間比較を行う場合、草本植物に比べて葉の形態も様々である点と、またリンコマイシンの効き具合も種類によって違う点について落葉樹においても順調に実験を進めることができた。木本植物においても、KpiとKrecの間の光生育環境に応じた光阻害と修復のバランスを保つ種の他に光阻害を全く受けない種と、逆に光阻害を受けやすく修復能力も低い種などの特性を明らかにできた。 今年度のこれらの成果を、ニュージーランドで8月に現地開催された第18回 国際光合成会議2022(the 18th International Congress on Photosynthesis Research)での英語口頭発表にて1セッションで4人しか口頭発表に選出されない口頭発表者の中に選ばれ、英語での口頭発表を行った。また、国内における学会においても植物生理学会での光合成セッションでの口頭発表をはじめ、生態学会では英語口頭発表、森林学会では日本語での口頭発表により広く成果報告を通して議論を深めることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
さらに、来年度はこれらの光損傷速度定数と蛍光パラメーターを調べ、これらの値と生育環境との相互関係を明らかにできた。来年度は、この特性をより生化学レベルの光合成機構を明らかにする。また、昨年度の成果から申請者らが新たに立てている仮説の検証を分子機構の解明を通して行う。また国際誌への投稿を急ぐ。
光阻害の主な標的はPSⅡであり、葉の光損傷の速度定数(Kpi)と修復の速度定数(Krec)は生育する光環境によって異なることが、草本植物を用いた研究で既に指摘されている。来年度は、日中の変動光や、季節変動に伴う光合成調節を理解するために、多年生植物や樹木を対象とした実験を行う。これは、森林のような変動光環境下の光合成特性について、光阻害の影響を含め、形態や生理など機能性質で定量的に把握することは炭素蓄積速度の予測においても重要な課題である。また、これまではネガティブな側面として捉えられてきた光阻害について、PSIを保護するための防御機構とする新たな光合成制御メカニズムの役目を検証する点でも光阻害研究を大きく進展できる予定である。 これまでの光阻害実験に加えて来年度は、光合成特性と葉の形態的特徴や窒素量との関係を明らかにする。過剰エネルギーを安全に放散させる熱放散を、HPLC分析による色素定量を通じて評価する。光阻害実験結果での光合成反応の樹種間差と、葉の形態LMA (乾重あたりの葉面積)や窒素含有量との関係を明らかにする。これに加えて、光合成特性と遺伝子解析についても取り組む予定である。光阻害について特徴的な数種の樹種に関して、RNA-Seqを行い光阻害応答に関連する光合成遺伝子の発現パターンを明らかにする。光合成特性の樹種間差を各種光合成パラメーターの測定により抽出し、生化学実験によりその種間差を生む分子的背景を明らかにする。
|