研究課題/領域番号 |
18K06254
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44020:発生生物学関連
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研究機関 | 大阪大学 (2019-2022) 京都大学 (2018) |
研究代表者 |
下條 博美 大阪大学, 大学院生命機能研究科, 助教 (40512306)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2020年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2019年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2018年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 細胞分化 / 神経発生 / 神経幹細胞 / 遺伝子発現動態 / ライブイメージング / 光遺伝学 / 神経分化 / Neurogenin / 細胞運命決定 / 分子タイマー |
研究実績の概要 |
マウス神経発生過程では、神経幹細胞ははじめ対称分裂して数を増やし、次にニューロンを生み出す非対称分裂を開始する。分化したニューロンは分裂して数を増やすことができないため、ニューロン分化が始まるタイミングは非常に厳密に制御されているが、その分子機構には不明な点も多い。Notchシグナルのエフェクター遺伝子であるHes1は神経幹細胞で発現し、神経分化を誘導するプロニューラル遺伝子であるNeurog2を抑制することで幹細胞の未分化性を維持している。Hes1の発現は神経幹細胞で振動し、それによって標的遺伝子であるNeurog2の発現も振動する。さらにNeurog2は発現振動している間は神経分化を誘導しないが、持続発現すると神経分化を誘導することから、Neurog2の発現動態が変化することが神経分化のタイミングを決定する上で重要であると考えられた。Neurog2の持続発現はHes1の発現低下によって引き起こされるが、Hes1の発現低下を引き起こす分子機構は不明な点が多い。 本研究では神経分化開始のタイミングを制御する機構を明らかにするために、Neurog2とその標的遺伝子の発現動態に着目した。これまでの結果からNeurog2の標的遺伝子の一つであるTbr2は、Notchシグナル分子の一つであるRBPjと結合し、Notchシグナルが活性化した細胞においてHes1の発現低下を引き起こすことが明らかとなった。さらにライブイメージングの結果から、神経幹細胞においてNeurog2の発現振動に伴ってTbr2タンパク質が蓄積を起こすこと、Tbr2タンパク質の蓄積に伴ってHes1の発現低下が引き起こされることが明らかとなった。またTbr2欠損マウスにおいてはHes1の発現上昇が認められ、神経分化のタイミングが遅れることが明らかとなった。現在、この結果を論文としてまとめ投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの結果からNeurog2の発現振動によって誘導されるTbr2タンパクの蓄積によってHes1の発現低下が引き起こされ、Neurog2が持続発現することが神経分化を開始させる上で重要であることが考えられた。またTbr2欠損マウスの胎子脳の神経幹細胞において、Hes1の発現が上昇し、対称分裂を繰り返す神経幹細胞の数が増えていることから、神経分化のタイミングに遅延が発生していることが明らかとなった。 神経発生過程の胎子脳において活性型NotchであるNotch細胞内ドメイン(NICD)の発現とHes1の発現を発生ステージ別に詳細に解析を行なった。幹細胞増殖期においては神経幹細胞が存在する脳室帯(VZ)の全ての領域でNICDおよびHes1が高レベルで発現していた。神経分化が開始されると、VZの外側の領域においてはNICDもHes1も高いレベルで発現が認められたが、VZの内側の領域においてはNICDの発現がある程度維持されているのに対して、Hes1の発現がほとんど見られないことが明らかとなった。このステージにおいてはVZの内側領域においてTbr2の発現が見られるようになることから、Tbr2の発現によってHes1の発現量が制御されていることが考えられた。このことからも、発生過程の胎子脳において神経分化が開始されるタイミングがHes1の発現量とそれを制御するTbr2の発現量によって制御されていることが考えられた。 現在、これらの結果をまとめ論文を投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
Neurog2の発現は神経幹細胞では振動し、分化過程のニューロンにおいては持続発現することから、Neurog2の発現動態の違いによって異なる細胞運命が誘導されることが示唆された。Neurog2は転写因子であり様々な下流遺伝子の発現を制御することから、発現動態の違いによって異なる下流遺伝子を誘導している可能性が考えられる。そこで、Neurog2が振動発現している神経幹細胞と、持続発現をしているニューロンへの分化過程の細胞において、Neurog2が制御している下流遺伝子群の探索をChIP-seq解析を用いて行っている。昨年度までに回収したChIP-seq解析のデータを解析し、細胞の分化程度の違いによるNeurog2の標的遺伝子の違い、つまりNeurog2の異なる発現動態によって制御される下流遺伝子群の違いを明らかにする。また、in vitroの培養系において神経幹細胞に光遺伝学を用いてNeurog2の発現動態を光操作する系を導入し、光照射パターンを変えることによってNeurog2の様々な発現動態を作り出し、Neurog2の発現動態の違いによって誘導される遺伝子群の違い、クロマチン構造の違いを明らかにする。これらの解析から、発現動態の多様性によって制御される細胞運命の決定機構を明らかにすることを目指す。
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