研究課題/領域番号 |
18K06851
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分48020:生理学関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
古家 喜四夫 名古屋大学, 総合保健体育科学センター, 研究員 (40132740)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2019年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2018年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | ATP放出 / ルミネッセンスイメージング / がん微小環境 / 乳がん細胞 / 低張刺激 / S1P / VRAC / LRRC8 / LRRC8A / DCPIB / アデノシン / 容積感受性塩素イオンチャネル / 発光イメージング |
研究実績の概要 |
がんは自らの周りに生存を維持するための微小環境を構築しており、そこにはATPが高濃度で存在する。このATPの大きな役割は分解によりアデノシンを生成、高濃度に維持することにより、がんに対する免疫攻撃を抑制することである。しかしがん微小環境においてATPが高濃度に維持されるメカニズムは分かっていない。本研究は、私たちの開発したATPリアルタイムイメージング法を用いて見出すことのできたがん細胞特異的なATP放出現象の機序と役割を明らかにし、がんにおけるATPシグナリングを解明することを目的としている。これまでに、低張刺激によって未分化の細胞株特異的に散漫的持続的なATP放出がみられ、それが容量調節性Cl-チャネル(VRAC)の阻害剤であるDCPIBでのみ阻害され、VRACの必須サブユニットであるLRRC8Aのノックダウン細胞において抑制されることからVRACの関与を確証した。このATP放出は低張刺激だけではなくがん微小環境にも多く存在する炎症性物質Sphingosine-1-Phosphate (S1P)で細胞容積変化を伴わずに活性化され、LRRC8Aのノックダウン細胞では抑制されることや乳がん細胞ではS1P受容体が多く発現していることなどからがん微小環境のATP放出に関してS1Pが重要な働きをしていることを示唆した。さらに今年度、メカノ受容チャネルとして知られているPiezo1も同様にVRACを介したATP放出に関与していることを示唆するデータを得た。すなわちPiezo1の活性化剤であるYoda1によってATP放出が誘起されたが、そのATP放出は阻害剤であるGsMTX4によって阻害され、またLRRC8Aノックダウン細胞において抑制された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低張刺激によって未分化の乳腺株細胞において分化した細胞とは異なったパターンのATP放出機序を見出した。それが容量調節性Cl-チャネル(VRAC)の阻害剤であるDCPIBで阻害され、VRACの分子実体であるLRRC8AをsiRNAによる一時的な発現阻害、アデノウィルスを用いたshRNAの恒常発現株細胞作製によるノックダウンにより抑制されたことからVRACを介したATP放出であることを明らかにした。乳腺株細胞にはLRRC8A,C,Dのサブファミリーが多く発現しておりそのことを支持する。さらに炎症性物質Sphingosine-1-Phosphate(S1P)が細胞容積変化を伴わずにVRACを活性化すること、乳がん細胞においてS1P受容体(S1P1, S1P2)が発現していることなどを明らかにし、がん微小環境でS1Pが重要な役割を果たしていることを示唆した。これらの結果を論文にまとめることができた。さらに新たな進展としてPiezo1がVRACを介したATP放出に関与していることが示唆された。これらの結果はVRACが構成すると思われる分子複合体の構造とその機能を考える上で興味深い。当初の計画とは異なる部分もあるが全体として研究は順調に進んでいるということができる。
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今後の研究の推進方策 |
低張刺激およびS1P刺激による未分化細胞特異的なATP放出機序がVRACを介していることを明らかにしたが、この機構が実際がん組織の微小環境におけるATP蓄積に関与しているのか、またこのATPががんの進展に関わっているのかは本研究の根本的な問いである。次年度ではそれを明らかにするため、ヌードマウスに種々のがん細胞株を移植しその増殖ぐあいを見るXenograftモデル系を構築し、VRACノックダウン細胞とコントロール細胞でのがん組織の増殖の違い、組織内のATP濃度の違いを測定する。
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