研究課題
基盤研究(C)
悪性神経膠腫(グリオーマ)は、脳実質に浸潤性に進展し、有効な治療法がなく極めて予後不良な悪性腫瘍である。我々は、神経幹細胞(NSC)が腫瘍細胞に対して非常に高い遊走・集積能を持つことに着目し、NSCを自殺遺伝子産物のcellular delivery vehicleとして用い、バイスタンダー効果により、広範に浸潤した腫瘍細胞に細胞死を誘導する新規治療法の開発を行なっている。本研究では、安全かつ安定的に自殺遺伝子を発現するiPS細胞を作製し、分化誘導したNSCの抗腫瘍効果をヒトグリオーマモデルマウスにおいて評価することを目的としている。平成30年度は、CRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いて、GAPDHハウスキーピング遺伝子領域にyCD(yeast cytosine deaminase)-UPRT(uracil phosphoribosyl transferase)融合自殺遺伝子を挿入したiPS細胞を作製した。iPS細胞から分化誘導したNSCを、in vitroでヒトグリオーマ細胞株のU87細胞または脳腫瘍幹細胞株のhG008細胞と共培養し、プロドラッグの5-FC(fluorocytosine)を添加すると、バイスタンダー効果により腫瘍細胞の細胞死が誘導されることを確認した。また、Venus蛍光タンパク質とLuc(ルシフェラーゼ)の融合タンパク質(ffLuc)を安定に発現するU87またはhG008細胞をヌードマウスの線条体内に移植したヒトグリオーマモデルマウスにNSCを移植し、腫瘍の増減を経時的・定量的にモニターしたところ、5-FC投与により、コントロール群と比較して腫瘍細胞が顕著に減少し、有意な生存期間の延長を認めた。さらに、脳を切片のまま培養(slice culture)し、ライブイメージングで観察することにより、移植したNSCが脳腫瘍に遊走・集積し、5-FC添加により細胞死を誘導する様子を捕らえることに成功した。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画で使用予定であった自殺遺伝子の単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSVtk)は、iPS細胞での恒常的な発現による細胞毒性が非常に強く、HSVtkを安定発現するiPS細胞株を得ることができないことが我々の研究で判明し、その詳細な解析結果を論文発表した[Int J Mol Sci 20, 810 (2019)]。また、テトラサイクリン遺伝子発現誘導システムを用いることにより、この細胞毒性の問題を解決することに成功した[Stem Cells Transl Med 8, 260-270 (2019)]。しかしながら、HSVtkがiPS細胞において細胞毒性を有すること、また治療にはプロドラッグのガンシクロビル(GCV)に加えてテトラサイクリンの誘導体(Dox)の投与も必要なため、臨床応用に対する懸念が生じた。そこで、もう1つの自殺遺伝子システムとして使用予定であったyCD-UPRT融合自殺遺伝子と5-FCの組み合わせを用いた研究計画を優先することにした。平成30年度は、CRISPR/Cas9ゲノム編集によりyCD-UPRT融合自殺遺伝子をGAPDH遺伝子領域へ挿入するための相同組み換え用のコンストラクトおよびgRNA発現ベクターを構築し、ゲノム編集されたiPS細胞を得ることができた。ゲノム編集は、genomic PCRおよび最終的にはgenomic sequencingによって確認した。また、5-FC添加による細胞死も確認した。作製したiPS細胞からNSCを分化誘導し、in vitroでU87細胞またはhG008細胞と共培養し、5-FC添加によるバイスタンダー効果により腫瘍細胞の細胞死が誘導されることを確認した。また、U87またはhG008細胞を移植したヒトグリオーマモデルマウスにNSCを移植し、5-FC投与により、抗腫瘍効果と有意な生存期間の延長を認めた。さらに、slice cultureのライブイメージングで、移植したNSCが脳腫瘍に遊走・集積し、5-FC添加により細胞死を誘導する様子を捕らえることに成功した。
CRISPR/Cas9ゲノム編集により、yCD-UPRT融合自殺遺伝子をβ-actinハウスキーピング遺伝子領域または遺伝子挿入による悪影響がなく安全性が高いとされているAAVS1領域に挿入したiPS細胞を作製する。GAPDH遺伝子領域へyCD-UPRTを挿入したiPS細胞を含めたこれらのiPS細胞からNSCを分化誘導し、yCD-UPRTの発現レベルをウエスタンブロット等で比較解析する。またNSCについて、in vitroおよびヒトグリオーマモデルマウスにおけるU87またはhG008細胞に対する抗腫瘍効果を比較する。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件) 図書 (1件)
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