研究課題/領域番号 |
18K08576
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分55010:外科学一般および小児外科学関連
|
研究機関 | 公益財団法人がん研究会 (2023) 九州大学 (2018-2019) |
研究代表者 |
山下 奈真 公益財団法人がん研究会, 有明病院 乳腺外科, 医長 (60608967)
|
研究分担者 |
徳永 えり子 独立行政法人国立病院機構(九州がんセンター臨床研究センター), その他部局等, 乳腺科部長 (50325453)
|
研究期間 (年度) |
2022-11-15 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2020年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2019年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2018年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
|
キーワード | トリプルネガテイブ乳癌 / MUC1-C / 癌幹細胞性 / 薬剤耐性 / インターフェロン経路 / DNA傷害耐性 / 免疫回避 / トリプルネガティブ乳癌 / 多様性 / 免疫・栄養 / 幹細胞性 / 腫瘍免疫 / E-cadherin / vimentin / EMT / collective invasion / 浸潤・転移 / Vimentin / ゲノム不安定性 |
研究開始時の研究の概要 |
乳癌の中でもエストロゲンレセプター陰性、プロゲステロンレセプター陰性、HER2蛋白陰性のトリプルネガティブ乳癌 (TNBC)は 従来より生物学的悪性度が高いこと、早期再発、予後不良という特徴があり、その治療選択肢も限られることより、治療に難渋する例が多い。中でも化学療法感受性が低いサブグループ を把握し、特異的な分子標的の同定、新しい薬物療法の開発が重要な課題である。実際の臨床の現場において、TNBCの病勢は多岐にわたる。従って、 TNBCの多様性の分子機序を解明し、予後不良な群に関しては、免疫チェックポイント阻害剤を含め、今後の治療に結びつく標的分子を解明することは非常に重要である。
|
研究実績の概要 |
(1)TNBCにおける癌幹細胞性:海外における研究滞在の実績等を踏まえ、TNBCにおける癌幹細胞性を規定する因子を探索した結果、糖蛋白であるムチン1のC末端(MUC1-C)が非常に重要な役割を果たしていることを発見した。MUC1のN末端はがん化に伴いsheddingを受けて血清中に放出され、乳癌の腫瘍マーカーCA15-3として長らく臨床現場で用いられている。一方でC末端は癌細胞に残り、様々なシグナル制御に関わる。TNBCの細胞株を用いたsphereの継代実験において、MUC1-Cはsphere形成能、免疫不全マウスにおける腫瘍形成能を制御していることを発表した。さらにMUC1-Cは継代sphereで解糖系を促進することにより癌幹細胞性を維持していることを発表した。 (2)TNBCにおける薬剤抵抗性・免疫回避:海外における研究滞在の実績等を踏まえ、TNBCにおけるMUC1-Cと薬剤抵抗性の関連性について探索したところ、MUC1-CはTNBC細胞株においてインターフェロン経路を強く制御することが判明した。MUC1-Cは細胞質内核酸センサーであるRIG-I、MDA-5、cGAS、STINGを制御する結果、癌細胞における慢性的Type-Iインターフェロン分泌を亢進する。結果、paracrine,autocrineによりインターフェロン経路の下流因子の転写制御が起こる。転写が更新する因子はDNA傷害耐性・免疫回避に関連する因子として知られる遺伝子群が特異的に発現増加していることが判明した。さらに、Type-IIインターフェロン経路のエフェクター因子であるPD-L1、COX2、IDO1の発現を制御することにより、局所免疫の回避を引き起こしていることが判明した。 以上よりMUC1-C阻害により、TNBCにおける癌幹細胞性、薬剤耐性、免疫回避を克服できる可能性があることを報告した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TNBCの中でも化学療法感受性が低いsubgroupを把握し、特異的な分子標的の同定、新しい化学療法レジメンの模索が重要な課題である。実際の臨床の現場においても、急速な病気の進行を呈する非常に予後不良のTNBCだけでなく、術後補助化学療法なしでも再発せず、長期予後良好な症例も多く経験する。従って、TNBCの多様性について、その分子機序を解明し、予後不良・良好の鑑別に役立つ因子を同定し、予後不良な群に関しては、今後の治療に結びつく標的分子を解明することは非常に重要である。 本研究ではTNBCの癌幹細胞性、薬剤耐性、免疫回避の背景に潜む重要な因子としてMUC1-Cが肝要であることを示すことができ、研究計画は概ね順調に進んでいると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は当院の豊富な臨床検体を用いて、TNBC症例においてMUC1-Cがどの様な臨床的意義を持つか再検証する。免疫染色によるMUC1-Cの染色と予後や免疫チェックポイント阻害剤を含めた抗腫瘍薬への反応性がどの様に関与するか検証する。更にTNBCの臨床検体からオルガノイド、PDXモデルを作成し、 scRNAseq、プロテオミクス、メタボローム解析を通じて、TNBCの癌幹細胞性・薬剤耐性・免疫回避との関連性を検証、および癌幹細胞を標的とした治療法の開発に取り組む。現在、米国Dana-Farber Cancer InstituteのKufe Labと共同し、MUC1-C阻害剤の開発を行っている。
|