研究課題
基盤研究(C)
本研究課題では、トラックポテンシャル(量子ビーム照射で生成する分子イオンの集まりが作る電場)と飛跡構造(エネルギー付与の空間分布)との関係を解明するシミュレーション研究を行う。この解明は重イオンビーム癌治療が高い治療効果を持つ理由の解明に繋がる可能性がある。昨年度までに主に以下の2つの研究を行なった。(i)クラスターイオン照射では、生成する分子イオンが空間的に広がるが、その広がりがトラックポテンシャルと飛跡構造との関係に与える影響を解明することを目指し、この照射のシミュレーション研究を行った。クラスターイオンを構成するイオンの数(N)、イオン間距離(R)などとトラックポテンシャルから脱出する二次電子の確率(P)、及び、二次電子のエネルギー付与の空間分布を表す動径線量との関係を明らかにした。(ii)重イオン照射では、照射後、すぐにプラズマ状態を形成すること、及び二次電子間のクーロン相互作用により非常に速い時間で二次電子は平衡状態になることが以前のシミュレーション研究でわかった。そこで、2つの状態になるまでの時間を比べた。その結果、安定したプラズマ状態になる前に平衡状態になることを示唆した結果を得た。今年度はこの2つ研究を組み合わせた研究、すなわち、クラスターイオン照射で先に定義したNとRに対するPを求めるシミュレーションを行い、二次電子の熱平衡状態とプラズマの生成との関係を考察した。その結果、NとRに関わらず、重イオン照射の場合と同様、安定したプラズマ状態になる前に平衡状態になることを示唆した結果を得た。ただ、Rが大きいときだけ、Nの増加に伴い、Pが僅かだけ増加する結果を得た。
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