研究課題/領域番号 |
18K12234
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分01050:美学および芸術論関連
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研究機関 | 早稲田大学 (2021-2022) 日本大学 (2018-2020) |
研究代表者 |
谷口 紀枝 早稲田大学, 坪内博士記念演劇博物館, その他(招聘研究員) (70782697)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2020年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2019年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2018年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 新派映画 / 弁士 / 口承芸能 / SPレコード |
研究実績の概要 |
本年度も前年度に引き続き、新派映画に付随したに関する資料を、主に映画、演芸雑誌と新聞媒体、主要書籍から渉猟する作業と行うと同時に、昨年度、課題としてあげた新派映画に添えられた「女性の声」と伝統芸能との関わりについてのリサーチも継続した。本年度は、旧劇の声色として生き残っていく女性の声が、女義太夫、女大夫、瞽女唄など、伝統的な芸能の延長線上にとどまり、近代劇である新派と結びつかなかった理由を考察し、7月、片岡コレクション研究会(ドイツのボン大学所蔵の約4.000枚からなるSPレコードコレクションを活用した研究会)のオンライン定期公演会において、「新派映画の音――初期時代の映画常設館における女性の声について」のタイトルで口頭発表を行った。その後、本発表と連動する形で、片岡コレクション研究会、「第4回SPレコードを聴く会」のテーマが「女性の声」と設定された。研究会では、大正初期に活躍した帝劇女優の音源を聴くことができ有意義な発見に繋がった。昨年に引き続き、本年もこのようなオンラインを含む研究会への参加を積極的に行ったが、中でも5月に早稲田大学演劇博物館主催で開催された「新派の音を聴く-四代目中村兵蔵とその時代」、11月の比較日本文化研究会、2022年度研究大会、「近代における大衆芸能の地域受容」における諸発表は、本研究との関連も深く多くを学んだ。また、本年は、連動して研究を継続している挑戦的研究(萌芽)「新派映画と「新派的なるもの」の系譜学」(2018-2020)の共同研究者と共著で刊行された『新派映画の系譜学――クロスメディアとしての〈新派〉』に論文を掲載し、その付録資料として「新派映画一覧」を作成した。この一覧は、作成にかなりの時間を要し、さらに編者2名とzoom会議を重ね完成に至ったものであるが、この過程での発見は大きく、今後の研究に生かせる貴重な経験となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新派映画についての文字媒体の資料渉猟は順調に進んでおり、付随した音についての研究も継続中である。本年度は昨年度より高い頻度で、演劇博物館、映画アーカイヴにおける資料収集が可能となり、ネット公開されている資料なども参照しつつ検証を進めた。また、本年度もオンラインで開催された研究学会やワークショップに積極的に参加したが、早稲田大学演劇博物館主催の「新派の音を聴く」のように対面での実施も再開され、漸くという前向きな気持ちになれた。定期的にオンラインで開催されるドイツのボン大学所蔵の片岡コレクション研究会には欠かさず参加しているが、この研究会には、各国から、音楽、音楽産業、芸能、各種博物館関係者などあらゆる領域の専門家が参加しており、特にSPレコード研究者からの情報は有益であり、領域を跨いだ研究の重要性を改めて実感している。日本においても、研究機関より公開されているSPレコード収録の新派演劇に関する音声など活用できる素材があるので、今後もこれらを積極的に利用し、デジタル化したSPレコードに収録された音についての検証をまとめていく計画である。一方で、本年度発表した「新派映画一覧」の作成過程で、映画草創期においては、新派悲劇と同等の割合で新派喜劇が製作されていたことを発見した。これは、新派といえば悲劇という認識を新たにするものであり、先述した「女性の声」のタイトルで実施された「SPレコードを聴く会」で流された帝劇女優吹き込みの高速喜劇との関連性を感じさせるものでもあった。今後は、新派喜劇の受容に関する検証も進めていきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、オンラインで視聴可能な明治大正期に発行された新聞や、各種映画雑誌の復刻版の隅々にまで目を通す作業を継続し、各種図書館、演劇博物館、映画アーカイヴなどを利用しての資料渉猟も積極的に行っていきたい。本年度は、「新派映画一覧」の作成過程で、映画草創期の新派映画に喜劇の存在を確認したので、今後は新派喜劇とその受容、それに付随した音についての検証も進めていきたいと考えている。また本年度は、連動して研究を進めた挑戦的研究(萌芽)「新派映画と「新派的なるもの」の系譜学」(2018-2020)の共同研究者と共著で『新派映画の系譜学――クロスメディアとしての〈新派〉』を刊行したが、次年度には、この共同研究者2名とパネルを組み、表象文化論学会第17回大会で口頭発表を行う計画であり、研究を更に深化させた内容になることが期待される。本書については、改めての書評会も計画されており、新派映画の重要な周辺領域である演劇、文学の研究者とともに領域を横断した闊達な意見交換の機会が得られることも期待される。昨年度、本年度と、映画の周辺領域の研究者と交流ができたことは大きな啓発となった。これを機に、他領域研究者との共同研究を継続させていきたいと考えている。映画は文学を翻案することで多くの作品を生み出してきた。次年度はまず、文学作品の受容における映画の影響についての考察を進め、日本近代文学会2023年度秋季大会で口頭発表を行うことを考えている。
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