研究課題/領域番号 |
18K12283
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 椙山女学園大学 (2022) 大阪大学 (2020-2021) 名古屋大学 (2018-2019) |
研究代表者 |
尹 シセキ 椙山女学園大学, 国際コミュニケーション学部, 講師 (80761410)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2019年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2018年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 内部発行 / 日本文学 / 冷戦 / 社会派ミステリー / 翻訳 / 松本清張 / 三島由紀夫 / 中国 / 文潔若 / 日中交流 / はぐるま座 / 夏堀正元 / 北東アジア / 軍国主義 / 北一輝 / 日本改造法案 / 憂国 / 豊饒の海 / 日中国交正常化 / 軍国主義批判 / 小松左京 / 戦後 / 日中文化 |
研究実績の概要 |
2022年度は、中国への出張調査およびAASでの学会発表を予想していたが、新型コロナウイルス感染防止のための渡航制限がまだ厳しく、中国での調査を実現することができなかった。一方、これまでに収集した「内部発行」資料の情報整理とデータ作成、および論文の執筆に集中した。 具体的には、「内部発行」の形で出版された日本の書籍をデータ化する作業に取り組んだ。近年、デジタル・ヒューマニティの学知が普及しつつあり、自然言語処理ツールを用いて、手動的に分析できないデータ群を計量的に考察する方法が開発されてきた。そんな状況を踏まえて、本研究も中国における日本文学の翻訳と受容について計量分析の手法を取り入れた。2022年度に行った書籍のデータ化は、さまざまな計量分析を行うための基礎処理になる。 本課題の内容を含む研究成果として、単著『社会派ミステリー・ブーム-日中大衆化社会と〈事件の物語〉』を花鳥社より刊行した。本書は社会派ミステリーの日本と中国での流行現象を考察し、冷戦期日中の文化的構造と相互的力学関係を分析するものである。第五章「新中国の「内部発行」と社会派ミステリー」、第六章「軍国主義の中の日本文学」の二章は、とりわけ「内部発行」の考察に重点を置いた。第五章は、日中が政治的に対立し、書籍の流通が制限された状況の中で、翻訳者たちはいかに「内部発行」制度を通じて文学の翻訳と流通を可能にしたかを明らかにした。第六章は、三島由紀夫や松本清張などの文学作品が1970年代に「軍国主義思想」の典型として翻訳され、批判対象となっていたものの、1980年代以降に文学作品として再評価された状況を解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度は、研究機関が大阪大学から椙山女学園大学に変った。仕事環境や育児などのスケジュールも大きく変化し、研究課題に取り組むことに集中するのが困難だった。また、研究計画の段階では、中国への出張調査およびAASでの学会発表を予想していたが、中国でのコロナ検査体制や隔離期間を懸念し、出張を実現することができなかった。そのため、資料調査と研究成果の発表が全体的に予定より遅れている。 一方、そんな中で実現可能な研究方法を模索し、PythonやKH Coderなどのツールを利用し、現在所有している「内部発行」資料の計量分析を行う実験を行った。2022年度には研究成果を論文として発表できなかったが、複数のデータ群をKH Coderで分析した結果、精読では発見できないキーワードが頻出語として現れるなど、「内部発行」資料を機械的かつ網羅的に解析するのは、中国における日本文学の翻訳と受容を解明する有効的な手段であることを判明した。そのため、一部の予算を使用し、古書をデジタル化し、データベースの整備に取り組んだ。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、繰越の予算を利用し、引き続き「内部発行」資料のデータ整備を行い、計量分析の手法で考察を進める。 4月から8月までは、現在所有している図書と印刷資料を検索可能なデータに変換し、基礎資料の整備を行う。同時に、中国のレビューサイトDoubanを利用し、「内部発行」の形で翻訳された日本文学についてのレビューを網羅的に収集し、ファイリングする。9月から2024年3月までは、KH CoderとPythonなどのツールで上述のデータについて分析を行い、日本文学の「内部発行」に関する傾向性や、読者における受容の状況についてさらなる検証を進めていきたい。
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