研究課題/領域番号 |
18K12342
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02040:ヨーロッパ文学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
林 千宏 大阪大学, 大学院人文学研究科(言語文化学専攻), 准教授 (80549551)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2019年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2018年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | モーリス・セーヴ / エンブレム / ダニエル・ヘインシウス / ジョアキム・デュ=ベレー / クレマン・マロ / 書物の歴史 / グロテスク / エピグラム / 縁飾り / ロンサール / 『恋愛詩集』 / ソネ / セーヴ / 『デリー』 / レミ・ベロー / 牧歌 / ルネサンス・フランス詩 / 芸術鑑賞 / エクフラシス / 鏡 / ルネサンス / フランス詩 / 恋愛詩 / フランス・ルネサンス文学 / プレイヤッド派 / 描写詩 / 古典の注釈 / 作品受容 |
研究実績の概要 |
当該年度の研究実績に関してはもっとも大きなものとして論文「「図像」の変遷―『カンツォニエーレ』から『愛のエンブレム』へ―」を発表したことを挙げることができる。これはそもそも当該年度においてベローの作品にみられる描写詩と同時代のエンブレム本との影響関係を考察するという計画から着想されたものである。この論考では、フランス16世紀の詩人モーリス・セーヴによる図像入りの10行詩集『デリー』が、ダニエル・ヘインシウスの『愛のエンブレム』(c. 1601)の直接的な源泉となっていることを出発点に、図像入り作品(『デリー』『英雄的トゥヴィーズ集』『俗人の劇場』『愛のエンブレム』)とそれらの源泉となった作品(『カンツォニエーレ』『続クレマンの青春』)、さらにそれらの影響を受けた図像を持たない作品(『夢』)とを比較、概観して、それぞれの作品における図像の用いられ方を考察した。 その結果、これらの作品中でのエンブレムの用いられ方を大まかに分類すなら3通りあり、1つ目は基本的に中世以来のドゥヴィーズ(インプレーサ)の用いられ方(『英雄的エンブレム集』『愛のエンブレム』)、2つ目は教義、教訓の隠された謎解きの一種として図像を提示する用い方(『デリー』)、さらに3つ目としてはすでにあるテクストの理解を容易にするために付された挿絵としての用い方があることを示した。 中でも図像入り本の初期の試みとして『デリー』は図像とテクストの直接的な関連性をあえて大きく低めることで、より多くの解釈を読者が導きだすようにし、その試みの先鋭性が同時代の多くのエンブレム本の中でも際立っていることを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度では本来、ベローの作品にみられる描写詩,すなわちブラゾンやエクフラシスが古代の叙事詩などを源泉としつつ,明らかに同時代のエンブレム本の影響を受けて創られていることをきっかけとし、こうした描写詩と同時代のエンブレム本の流行との影響関係をも考察し,16世紀前半の詩人マロ,セーヴからプレイヤッド派の詩人たちの作品を経て,いかにして16世紀後半の詩人デュ・バルタスの『聖週間』へと繋がっていくのかを明らかにすることを計画していた。実際には描写詩とエンブレム本の流行との影響関係を考察することはできたものの、デュ・バルタス『聖週間』へとつながる道筋については進めることができなかった。とはいえ、ヌーシャテル大学ロリス・ペトリス教授を招へいし、研究交流を行った上で、大阪大学にて2回の講演「ルネサンスにおける移転、改善性そして退廃 エラスムスからモンテーニュまで」、「ルネサンスにおける詩と芸術」を開催したことは大きな成果として挙げられる。だが本来の計画からするとペトリス教授の招聘は2019年ないしは2020年度に行う予定であったが、新型コロナウィルスの感染拡大にあって、受け入れ態勢が整わず、さらにはペトリス教授の予定も合わずに、2023年1月まで持ち越された。ただし、今回招へいがかなったことにより研究交流は大きく進み、予定よりは遅れているものの、着実に進捗をし始めたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、これまでのエンブレム本やモーリス・セーヴ『デリー』、ロンサール『恋愛詩集』(1552)、さらにデュ・ベレー『ローマの古跡』『夢』に関する論考と、レミ・ベローの『牧歌』(1565および1572)の研究とを結び付け、図像とテクストの関係、作者と読者の関係がどのように表象され、また作品自体がどのような発展をみるのかをより俯瞰的視点から考察していくこととする。そうすることで出版物というメディアの登場をうけ、16世紀後半のフランス詩がその形式や内容においてどのように変化していくのかが明らかになることを予想している。その際に計画していたギヨーム・ド・サリュスト・デュ=バルタスの『聖週間』を経由することで、いかにして17世紀の作品群へと接続していくのかも概観するつもりである。 こうした計画を進めるためには、多くの研究者との研究交流も不可欠である。そのために今年度渡欧し(これまではコロナ禍のため実現がかなわなかった)、現地にて研究発表等を行うことでヨーロッパの研究者たちとの交流を深めることで、研究の遅れを取り戻す計画をしている。
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