研究課題/領域番号 |
18K12725
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分06020:国際関係論関連
|
研究機関 | 同志社大学 (2022-2023) 高崎経済大学 (2018-2021) |
研究代表者 |
三牧 聖子 同志社大学, グローバル・スタディーズ研究科, 准教授 (60579019)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2019年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2018年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
|
キーワード | リベラリズム / 国際秩序 / アメリカ外交 / 国際主義 / 民主主義 / 人権 / 介入 / 国際法 / 戦争 / 帝国 / 国際連盟 / 国際協調 / 世界秩序 / 平和思想 / 平和運動 / 国際規範 |
研究実績の概要 |
本研究は、リベラル国際主義を批判的に検討し、その問題点を克服した新たな外交と世界秩序を展望するという目的に照らし、第28代大統領ウッドロー・ウィルソンの外交(1913-21)を再検討するものである。アメリカ外交において、世界の民主主義化というウィルソンの平和ヴィジョンや、国際連盟を通じた多国間協力の模索は、リベラル国際主義者のアイディアの源泉であり続け、彼らが眼前のアメリカ外交がそこから逸脱しつつあると感じたとき、立ち戻るべき原型として想起され続けてきた。ウィルソンの影響はアメリカにとどまらない。国際関係論の分野では、ウィルソン流の外交を指す「ウィルソン主義」という言葉は、人間理性への信頼に立脚し、国家間の権力闘争を漸進的に克服し、協調的な世界を実現していく「理想主義」の典型例として参照されてきた。
しかし後世で語られてきた「ウィルソン主義」は、「平和のための14か条」や「世界を民主主義にとって安全にするための戦争」といったウィルソンの印象的なスローガンを、そのままウィルソン外交のエッセンスとみなすという、非歴史性の問題を抱えてきた。本研究は、「素朴な理想主義者」「民主主義の宣教者」といった画一的なイメージに収まらないウィルソンの政治思想、その外交への影響を明らかにしてきた。最終年度にあたる本年度中に単著にまとめる。
同時に、リベラルな国際主義がますます批判的検討にさらされ、オルタナティブの外交路線が模索される今日のアメリカ外交の考察も進めてきた。その成果は、2023年の国際政治学会共通論題報告「テロとの戦いの帰結に向き合うアメリカ、向き合えないアメリカ」、「内側から侵食される「リベラルな国際秩序」(『国際政治』所収)などの形で発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ウッドロー・ウィルソン外交の問題として指摘されてきたものとして、国際規範や理念の「ダブルスタンダード」の問題がある。ウィルソンは、普遍的な理念を掲げる一方で、それがすべての諸国民に等しく適用されるとは考えておらず、非西洋世界に対しては植民地主義的・帝国主義的な態度から脱却できなかった。ウィルソン外交を「理想主義」と位置付ける一連の研究は、こうした非西洋世界の視点を考慮にいれないことによって、あるいは過小評価することによって成り立ってきた。
そして今日のアメリカ外交も、ウィルソンの時代から引き継がれてきた「理念のダブルスタンダード」の問題を色濃く示している。2023年10月7日、パレスチナ自治区ガザを拠点とするイスラム組織ハマスの攻撃、それを受けて開始されたイスラエルの大々的な軍事行動によってガザでは人道危機が深刻になっているが、アメリカはイスラエルへの軍事支援の停止すら躊躇っている。グローバルサウス諸国が影響力を増している国際社会は、イスラエル、そしてそれを支えるアメリカへの批判を強めている。本研究が進めてきたウィルソン外交の歴史的分析は、こうした今日の国際情勢を理解する一つの視座となるものであり、そうした趣旨の論稿や報告を通じ、本研究の今日的な意義についての考察を深めることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたるため、ウィルソン外交とその歴史的・今日的意義についてまとめた著作を仕上げ、関連する報告を行う。 また、ウィルソン外交の核には、「アメリカ例外主義」的な観念ーアメリカは諸国家の中でもひとり、例外的に道義的であり、ゆえに世界で特別な使命を持つーがあったが、この「例外主義」的な観念は、長い「テロとの戦い」とそれがもたらした犠牲や疲弊、国内で深刻化する格差や社会保障の欠如、それをあらわにした新型コロナ危機など、ここ20数年間にアメリカを襲った事象によって大きく揺らいできた。この時代に生まれたZ世代(1990年代半ばから2010年代序盤生まれ)には、「例外主義」的意識はきわめて希薄であり、むしろ自国に対して批判や絶望を抱えている人も多い。こうした「例外主義の終焉」とでもいうような状況が、今後のアメリカ社会や外交にどのような影響を与えていくのか。この問いは、長らくアメリカ外交の理想像とされてきた「ウィルソン主義」に潜んでいたアメリカ中心主義や、非西洋世界に対する差別を乗り越え、どのような新たな外交理念をつくりあげていくか、という問いでもある。研究のまとめとして、こうした今日・将来のアメリカ外交についての問いも考察し、書籍にまとめる。
|