研究課題/領域番号 |
18K12980
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分08020:社会福祉学関連
|
研究機関 | 嘉悦大学 |
研究代表者 |
酒井 翔子 嘉悦大学, 経営経済学部, 准教授 (50740403)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2019年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2018年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
|
キーワード | 所得再分配 / 租税回避 / 持続可能性 / 格差是正 / 逆進性 / 最適課税 / 欧州税制 / 社会保障 / 租税政策 / 英連邦諸国制度 |
研究実績の概要 |
2022年度は、2つの学会において、論文報告を行った。1つ目は、「法人税法132条の意義と範囲拡大の可否」である。現在、G20 ・EU 諸国のほとんどが 一般的租税回避否認規定を導入している。しかし、租税回避否認規定に関して、わが国では、法人税法132条の「同族会社等の行為又は計算の否認」における特定の場合を対象とした個別的な規定が設けられているが、すべての法人・取引等を対象とする包括的な租税回避否認規定はない。この法人税法132条の規定は、大正12年に第1種所得税法の改正により設けられ、創立当初は出番が多くかったが、今日における租税回避の否認は、法人税改正を経て徐々に個別要件化されてきた。そこで、諸外国の一般的租税回避否認規定の検討をしつつ、法人税法132条の「法人」について、経済活動・環境変化に即して適用対象の拡大可否について検証を行った。 2つ目は、「脱炭素社会に向けた気候関連財務情報開示と環境保護税制への期待」であり、脱酸素社会を軸として会計・税両視点からの検討を行った。とりわけ、二重配当の要素を備える環境保護税制に対しては、SDGsの観点からもその役割・機能への期待は高まっている。環境負荷要因の縮減に加え、税収による他税目の負担軽減・厚生水準の向上を社会にもたらす環境税は、諸外国においても他の税の歪みを是正する有効な手段となっている。 さらに、次年度の学会へ向けて「Tax and Corporate Governance: Best Practice of Tax payment and Top management」の論文に取り掛かった。国連やGRIを中心に「SDGsを達成する上で租税が重要な役割果たす」が提唱され、法人税の役割が注目される中、OECD主導の多国籍大企業に対する課税強化・租税回避防止策と企業の納税に対するガバナンスのあり方について検討を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、①の税体系に関しては、検討素材の『マーリーズ報告書』においても、タックスミックス(多税目間)の視点から重要視されていた環境税を検討し、②の所得再分配方法に関しては、法人所得税が富の再分配機能および所得の再分配機能を通じた格差是正機能に効力を発揮できるという観点から、現行法人税に内在する問題を検討した。さらには、論文の公表には至っていないが、給付付き税額控除の有効性やBEPSでの議論、GRIを中心とする税務情報に係る透明性の要求等の調査・研究は継続している。このように、本研究の①・②の主要テーマに関連する個別論点の検討を着実に重ねている。 なお、BEPS主導で行われた『経済のデジタル化から生じる税務上の課題への対処』は2021年にG20首脳会議にて合意に至り、市場国にも課税権を認める新たな課税根拠や利益配分方法が認められた。この事業拠点のある居住地国に加えて市場国に課税権を配分する考えは、消費税や付加価値税の概念(仕向け地主義)が法人税の領域でも採用されることになり、現行法の及ばない租税回避に対応するためには、税の帰属(居住地国・源泉地国・仕向け地国)等、従来の根本的概念を覆すような議論の必要性と有効性が示された。COVID 19後加速するデジタル化や経済活動の変化に伴う新たな課税論点も視野に入れながら検討を続ける。
|
今後の研究の推進方策 |
これまで、①財源確保のための最適な税体系、②格差是正のための所得再分配方法の主テーマについて、国内外における大枠の議論・検討を進めてきたことから、今後は、国内においては現行税制(主として、消費税・法人所得税)の個別的問題を詳細に検討する一方、グローバルな潮流も漏れなく検討した上で、①財源確保のための最適な税体系、②格差是正のための所得再分配方法の結論に向けて、これまでの研究成果を総合・集大成する形で論文報告に繋げていく。 SDGsをはじめ、COVID 19に伴い加速する持続可能な社会の実現へ向けた国際的協調への動きの中で、税もまたグローバルに公平であるべきとの思考が高まっている。BEPS「2021最終合意」や国際連帯税への関心の高まり、一般的租税回避否認規定(日本以外のG7で導入)等からもそうした思考が伺える。さらには、企業の役割としても持続的な成長と地球社会への貢献が強く求められるようになった。税務についても、持続的な成長戦略の一環と地域貢献の観点から税法遵守・税情報の透明性等、税務ガバナンスへの要求が高まっている。そのため、不適切で不公平な現行税制の歪みを放置すれば、企業がいかに税務ガバナンス情報を積極的に開示しようとも、その算定結果(納税額)は、担税力に基づく課税の結果とは言えず、不適切な情報が利害関係者の判断をミスリードすることにもなりかねない。 格差是正に向けた現行制度の課題解消と求められる政策課題について、これまでの研究成果に照らして纏める作業に入る。その際、従来積み残しとなっている完全給付型であるベーシックインカムの検討にも早々に着手・整理を行う。
|