研究実績の概要 |
本研究の目的は、保育所のマネジメントという視点から、保育所内で採用されている賃金制度と、キャリア形成の実態を照らし合わせ、保育士の経験年数・技能と賃金との関連、保育士のキャリア形成と賃金水準との関係について事例を通じて検討することである。。 2023年度の課題は、初年度に実施した予備調査を前提に、成果を報告することである。中央大学経済研究所年報第56号に、「保育所における組織内キャリア発達段階と職位との関連に関する一考察―保育の質を保障する職場集団のあり方に注目して―」というテーマで投稿し、今後出版予定である。本稿は、保育所における組織体制と組織内キャリア発達の実態について事例を基に検討することにより,保育士の経験年数,担当する仕事難易度・技能と,職位や組織内での役割とがどのように関連しているのか,について実証的に明らかにすることである。 北海道の2つの保育園の園長に対するインタビュー調査により,組織内においてキャリア発達がどのような段階で想定され,組織内での役割や職位とどのように関連しているのかについて明らかにした。2園の園長からは,保育士の「育ちの段階」を分ける基準として,保育技能ではなく,「人と関わる力」が重要であることが共通して語られた。また,両園の園長の重視する「人と関わる力」の背景には,保育観や保育の質に対する両園の理解があることも共通していた。先行研究が指摘するように,保育士に必要とされる能力や組織構造は,保育園の保育理念や保育方針によって独自性が色濃く反映されることが,本研究からも確かめられた。さらに,この間政策的な後押しによって進められてきたキャリア形成の施策が,従来の組織内のキャリア形成支援や賃金システムに変更を迫るものであった可能性が示唆された。
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