研究課題
若手研究
植物は生存戦略の一環として,1つの化合物群を巧みに制御してさまざまな生理機能を持たせることがある。例えば主にアブラナ科に含まれる二次代謝産物であるグルコシノレートは,外敵に対する化学的防御物質であると同時に,植物自身の生命活動を制御するシグナルとしてもはたらくと考えられている。本研究ではシグナル分子としてのグルコシノレートの機能解明を目指し,生理活性を発揮する起点である分解プロセスを解析する。同位体ラベルなどの合成化学的手法と,各種質量分析装置を駆使したメタボローム解析を組み合わせて分解産物のプロファイリングを行い,組織破壊を伴わない細胞レベルのグルコシノレート分解現象を明らかにする。
グルコシノレート(GLS)はからし油配糖体とも呼ばれ,食害などによって植物組織が破壊されると,糖加水分解酵素と混ざり合い,防虫効果や発がん抑制作用を持つイソチオシアネートなどへと変換される.本研究では組織破壊に依存しないGLS分解現象に着目し,その生理機能をシロイヌナズナで調べた.その結果,硫黄欠乏条件において①GLSが単一の硫黄源として資化可能なこと,②分子中の硫黄原子がシステインなどの含硫一次代謝物へと転流していること,③糖加水分解酵素BGLU28とBGLU30が本現象の責任酵素であることを見出した.本成果により,GLSは硫黄の貯蔵源でもあるという長年議論されていた仮説が証明された.
二次代謝産物が一次代謝へとリサイクルされる可能性は古くは1980年代に指摘があるが,実験的に証明されはじめたのはごく最近であり,本発見は,体内に蓄えた二次代謝産物を栄養源として分解・再利用するシステムが植物に備わっている生化学的根拠を明確に示した初の事例である。一方通行と考えられている一次代謝と二次代謝の関係に一石を投じたことで大きなインパクトを与え、PNAS誌に掲載された。化合物を「作る」生合成経路だけでなく、化合物を「減らす」代謝フローにも目を向けることで、植物体内での複雑な物質生産制御機構やその意義のさらなる理解につながると期待される。
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