研究課題
若手研究
植物は生存戦略の一環として,1つの化合物群を巧みに制御してさまざまな生理機能を持たせることがある。例えば主にアブラナ科に含まれる二次代謝産物であるグルコシノレートは,外敵に対する化学的防御物質であると同時に,植物自身の生命活動を制御するシグナルとしてもはたらくと考えられている。本研究ではシグナル分子としてのグルコシノレートの機能解明を目指し,生理活性を発揮する起点である分解プロセスを解析する。同位体ラベルなどの合成化学的手法と,各種質量分析装置を駆使したメタボローム解析を組み合わせて分解産物のプロファイリングを行い,組織破壊を伴わない細胞レベルのグルコシノレート分解現象を明らかにする。
自然界の生物が限られた栄養条件下で生命活動を維持する戦略の中に,「1つの化合物群を巧みに制御することでさまざまな機能を持たせる」という方法がある。主にアブラナ科によって生産される含硫黄二次代謝産物のグルコシノレートはその好例であり,外敵に対する化学的防御物質であると同時に,植物自身の生命活動を制御するシグナルとしてもはたらくと考えられている。本研究ではシグナル分子としてのグルコシノレートの機能解明を目指し,生理活性を発揮する起点である分解プロセスを解析する。同位体ラベルなどの合成化学的手法と,各種質量分析装置を駆使したメタボローム解析を組み合わせることで,分解産物のプロファイリングを高感度で実現し,組織破壊を伴わない細胞レベルのグルコシノレート分解現象を明らかにする。海外派遣の終了に伴い、当該期間中に中断していた本課題を令和5年2月より再開した。中断前に行っていた植物試料の栽培・抽出・分析プロトコルを現在の所属機関で再現するため、LC-MSをはじめとした各種装置や整備やメソッド構築、必須消耗品の購入など、研究環境のセットアップを中心に行った。同じく中断前に確立した安定同位体ラベル化グルコシノレートの合成について、試薬や実験機器の準備を行った。また、海外派遣中に研究中断までの本課題の成果が論文化されたため、その内容を日本農芸化学会2023年度大会にて発表した。
2: おおむね順調に進展している
中断前に行っていた実験のほとんどについて、現在の所属機関において再現可能な実験環境が整ったため。
中断前の研究から、安定同位体ラベル化グルコシノレート(GLS)の添加により植物内でGLSが分解される分子経路をある程度追跡できることが示された (Sugiyama et al. PNAS 2021)。最終年度では、側鎖の異なるGLS分子種による応答の違い、GLSの分解・生合成が亢進することが知られる環境刺激(硫黄欠乏・乾燥ストレスなど)における違い、GLS分解産物の多様性の基づく違いに焦点を当て、組織破壊に依存しないGLS分解経路の生理的意義を明らかにする。同位体ラベル化グルコシノレート(GLS)を各種合成し,それらを添加した際にラベル化される代謝物を質量分析装置で網羅的に解析し,分解経路の予測を行う。得られた代謝物の時系列データをもとに,添加したGLSの推定分解経路を構築する。メタボロームデータ取得については,前所属研究室の協力の元,高分解能なQ-TOF型LC-MSによる非ターゲット分析やワイドターゲット分析法による約700化合物の高感度測定を実施する。シンガポールでの研究滞在により向上したバイオインフォマティクスを駆使し,ラベル体・非ラベル体処理時の比較から化合物を同定する。並行して、トランスクリプトームとの統合解析による分解経路の責任遺伝子群の同定を行う。上記で得られた時系列サンプルについてトランスクリプトームデータを取得し,代謝物と遺伝子発現の統合解析から分解経路の責任遺伝子群を同定する。代謝物の時系列変化と協調する遺伝子を抽出し,各変換反応への関与が予想される遺伝子を絞り込む。有望な遺伝子については変異体を取得し,代謝物の変化などから関連性を証明する。異なる環境刺激を与えた植物試料や、GLS分解産物を添加した植物試料についても同様の解析フローを実施する。
すべて 2023 2022 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
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