研究実績の概要 |
潰瘍性大腸炎は、長期にわたる再燃・寛解を繰り返し、持続する炎症により発癌率が上昇するといわれる難治性疾患である。慢性炎症は、NF-kBシグナル経路などを介して数々のエピゲノム調節因子を誘導し、クロマチン構造の改変やDNAメチル化を誘導することが知られている。また、大腸癌は、エピゲノム異常を含めて発癌に至る分子異常経路が複数あることが明らかとなっている。以上より、潰瘍性大腸炎由来の発癌は慢性炎症によるエピゲノム変化が深く関与することが考えられる。 まず、公開メチル化データを用いて、正常粘膜、潰瘍性大腸炎粘膜、治療された潰瘍性大腸炎粘膜のDNAメチル化状態について解析を行った。正常粘膜や治療後粘膜と、炎症状態の粘膜を比較したところ、プロモーターのメチル化状態が違う複数の遺伝子の存在が示された。疾患の活動性や治療に伴い、エピゲノム状態が可逆性に変化すると考えられた。 次に、ホルマリン固定・パラフィン包埋切片を用いて癌部・背景粘膜のエピゲノム状態を評価し、時間経過に伴う変化や、癌部と背景粘膜の差異を明らかにする事とした。背景粘膜については、癌部からの距離と炎症やエピゲノム状態の関連性についても評価するため、癌部近位から遠位にかけて複数か所のサンプリングを行う計画とした。DNMT1, 3A,3B, ARID1Aなどのエピゲノム制御因子の免疫染色や、メチル化アレイや遺伝子発現アレイを行うため、2008年から2018年までの10年間における潰瘍性大腸炎合併大腸癌手術症例と内視鏡フォローアップ中にdysplasiaと診断された症例を抽出した。
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