研究課題
若手研究
SARS-CoV2に関する研究は、滋賀医科大学第2病理学教室でも実験を行う予定である。当教室ではSARS-CoV2のWuhan株を感染させたカニクイザルのサンプルがすでに保管されている。これらを用いて、肺炎像が見られた個体と見られなかった個体の血液中のPD-1, TIGIT, IFNs及びIL-6の発現量を解析する。肺炎像が見られた個体で発現が増加していた因子が、増悪化因子の候補となる。因子が絞られたらその因子を抗体によりノックアウトしたハムスターを用いて、実際に増悪化するのか検討する。この研究により、インフルエンザおよび新型コロナウイルス感染症共通の増悪化因子を同定することができる。
本研究は、インフルエンザウイルスおよびSARS-CoV-2の重症化因子の解明を目的としている。本研究課題の前半では、インフルエンザウイルスにおいて、免疫チェックポイント因子であるPD-1, TIGITおよび、抗ウイルス性サイトカインおよび炎症性サイトカインであるIFNs及びIL-6が重篤化因子もしくは重篤化因子と相互作用していることが示唆された。(Suzuki et al., AAC. 2020.)そのため本年度は同じ急性呼吸器疾患であるSARS-CoV-2にも範囲を広げ解析を行った。用いた動物モデルはカニクイザルであり、カニクイザルはヒトと遺伝的・進化的に近縁で症状が似ているため最も適した動物モデルと言える。しかし貴重性が高く高価であるため、予算内で新たに感染実験を行うことは難しかった。そのため、滋賀医科大学にて行なったSARS-CoV-2感染実験のサルサンプルをお借りした。解析に用いたサンプルはSARS-CoV-2感染3日目のサルの気管、各肺葉、心臓、腎臓、肝臓、大脳、小脳、脳幹のパラフィン包埋サンプルであり、これらを用いてSARS-CoV-2のNタンパクの免疫組織染色を行った。結果、ウイルスの抗原が見られたのは肺にのみで、脳やその他の臓器では認められなかった。このことから、感染3日目では脳などにはウイルスは拡散していないことが示唆された。また重症化の症状である全身疾患や後遺症の一つである意識障害などは、ウイルスの拡散という観点では認められなかった。今後はウイルスだけではなく、上記インフルエンザウイルスにおける重症化因子や留学中に同定した宿主のSARS-CoV-2侵入補助因子にも範囲を広げて解析を行う予定である。
3: やや遅れている
研究再開当初は滋賀医科大学へ出向きより詳細な解析を行う予定であったが、妊娠というライフイベントや教育活動、その他の研究遂行により難しかったため、サンプルを輸送してもらい解析を行った。そのため、輸送できるサンプルの種類に限りがあり、また滋賀医科大学に設置されている機器も使用することができないことが遅延につながった。次年度では、できる限り滋賀医科大学へ出向きより詳細な解析を行いたい。
今回の結果で、感染3日目というタイミングが適していない可能性が出てきた。そのため、より重症化したサルの最もウイルス量が多い日数での末梢血単核球サンプルや血漿サンプルを用いて、免疫チェックポイント因子やサイトカインの解析を行う。また後遺症の解析としては脳のサンプルを用いて炎症性サイトカインや同定した因子の発現を解析する。これにより、重症化した場合の免疫動態の解析、およびウイルスが減少した後も炎症やその他関連因子が発現増加しているのかを見ることができ、後遺症メカニズムの解明につながることが期待できる。
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