研究課題
若手研究
肥満は、慢性炎症の原因や発癌のリスクファクターであり、脂質の過剰摂取が肥満の原因の一つである。多価不飽和脂肪酸のリノール酸は、ヒトが持つ酵素によりプロスタグランジンなどの脂質メディエーターに変換され、炎症反応を誘導する可能性がある。一方、腸内細菌もリノール酸を代謝し、代謝過程で生じる中間代謝産物の中には炎症性疾患を抑える作用を持つものがあることが示唆されている。しかし、その詳細な作用機序、特に炎症反応を引き起こす免疫細胞に対する腸内細菌代謝脂質の作用は十分には解明されていない。そこで本研究では、免疫系に対するリノール酸代謝物の効果と、代謝物が生成される場である腸に着目した。まず、リノール酸を過剰摂取した場合にどのリノール酸代謝物が多く生成されるのか明らかにするため、低リノール酸-高脂肪食摂取マウスと高リノール酸-高脂肪食摂取マウスの大腸におけるリノール酸代謝脂質量を測定した。その結果、高リノール酸-高脂肪食摂取マウスの大腸には、予備試験で免疫細胞のサイトカイン産生を抑制したリノール酸代謝脂質 (HYA、KetoA、KetoC等) が多く存在することがわかった。そこで、単独で強い抑制作用を持ち、高リノール酸食摂取後に組織中で増加したKetoAとKetoCに着目し、免疫細胞のサイトカイン産生に対する効果を改めて検討した。その結果、各代謝物は単独でも免疫細胞によるサイトカイン産生を抑制したが、併用することでより強い抑制効果を示すことがわかった。したがって、生体内で複数のリノール酸代謝物が生成された場合、協調して働き、より強い作用を発揮すると考えられる。今後、炎症性腸疾患や大腸癌の病態形成に対するリノール酸腸内細菌代謝物の効果が明らかにされ、生体内における詳細な役割が解明されることを期待したい。
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