研究課題/領域番号 |
18K15766
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分53010:消化器内科学関連
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
宮川 恒一郎 産業医科大学, 医学部, 助教 (20566434)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2019年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2018年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 非アルコール性脂肪性肝疾患 / オートファジー / SERCA |
研究実績の概要 |
非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD) の肝においては、ユビキチン・プロテアソーム系やオートファジー・ライソゾーム系という細胞内蛋白分解システムが抑制さ れている。これにより細胞内には異常蛋白が蓄積し、NAFLDの病態進展に寄与すると考えられている。現在までに我々は、遊離脂肪酸のオートファジーに及ぼす 影響を解析した。高脂肪食マウスの肝臓において、オートファゴソーム蓄積が認められたが、オートファジーの選択的基質であるp62やユビキチンも増加してお り、高脂肪食マウスの肝臓においては、オートファジーの後期段階が障害されていることが示唆された。そこで、詳細にautophagic fluxを解析するため、培養 肝細胞を不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸それぞれで処理し、autophagic fluxに与える影響を検討したところ、不飽和脂肪酸と異なり、飽和脂肪酸暴露において高脂 肪食マウスと同様に肝細胞内にオートファゴソームが蓄積していた。そこで、オートファゴソームの合成能と分解能を評価したところ、オートファゴソームの合 成能は飽和脂肪酸暴露により変化しないものの、オートファジーの後期段階が障害されていた。オートファジーの後期段階をさらに解析したところ、飽和脂肪酸 暴露において、オートファゴソームとライソゾームの融合が抑制されていた。また、この障害は小胞体ストレスと相関しており、飽和脂肪酸による小胞体ホメオ スタシスの破綻がオートファジー機能を抑制することがわかった。しかし、どのような機序で飽和脂肪酸が惹起した小胞体ストレスがautophagic fluxを障害す るかについては不明であり、今後さらなる検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
小胞体ストレスは様々な細胞内外からの刺激によって、小胞体内に異常タンパク質が蓄積することで引き起こされる。小胞体ストレス誘導剤としては tunicamycin、puromycin、thapsigariginなどがある。Tunicamycin は糖鎖修飾を、puromycinは翻訳のプロセスを阻害することでタンパク質合成を阻害し、小胞 体内に異常タンパク質の蓄積を惹起する。Thapsigarginは小胞体膜のCa2+-ATPase (SERCA) の阻害剤であり、小胞体へのカルシウムイオンの取り込みを阻害する と同時に、小胞体から細胞質へのカルシウム漏出を引き起こし、小胞体ストレスを惹起する。これら3つの薬剤が肝細胞のオートファジーに及ぼす影響を検討し たところ、tunicamycinとpuromycinはオートファゴソームの合成を促進した。一方、thapsigarginはオートファゴソームの合成は促進せず、オートファゴソーム とライソゾームの融合を阻害し、オートファジーに対して飽和脂肪酸と同様の影響を及ぼした。飽和脂肪酸暴露時の小胞体内カルシウム濃度を測定した とこ ろ、有意な低下を認めた。一方で不飽和脂肪酸暴露では変化がなかった。これらのことから、飽和脂肪酸は肝細胞において小 胞体のカルシウムホメオスタシス を変化させ、小胞体ストレスの誘導、オートファゴソームとライソゾームの融合阻害を惹起している可能性が示唆された。飽和脂肪酸暴露によって引き起こされ た小胞体ストレス誘導とオートファジー障害は、不飽和脂肪酸を投与することでレスキューされ、同時に小胞体内 のカルシウム濃度低下も改善した。加えて、 このレスキュー効果はSERCAを阻害することでキャンセルされることを明らかにした。さまざまなSERCA活性化薬を使用し飽和脂肪酸による脂肪毒性のレス キュー効果を評価したが、その効果は不十分である。
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今後の研究の推進方策 |
SERCA活性化薬が飽和脂肪酸による脂肪毒性を軽減するのではないかと考え、検討を進めていたが、その効果は限定的であった。上記検討を進めるなかで、gingerolにはmTORC1の阻害作用を有し、S6Kのリン酸化を抑制する効果があることがわかっった。mTORC1阻害薬であるrapamycinでも同様の作用があるものの、gingerolではrapamycinと異なりAkt Der473の活性化をきたさなかった。Rapamycinは肝細胞癌の治療薬として期待されていたがAktのリン酸化が抗腫瘍効果の妨げとなった。Gingerolにはrapamycinの弱点を補う効果を有している可能性があり、gingerolの細胞増殖抑制効果についてさらに検討を進めていく。
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