研究課題
挑戦的研究(萌芽)
塩味(NaCl)は食品のおいしさに関わる重要な味覚である。NaCl受容にはNa+とCl-の両方が関与し、前者の分子としてENaCが報告されている。本研究ではCl-を受容する分子をRNA-seq法により探索し、有郭乳頭味蕾に発現するチャネル様遺伝子nClを発見した。HEK293細胞の電気生理実験から、nClは電位依存的にCl-を透過し、NPPBで阻害されるアニオンチャネルであることが示された。NaCl溶液に対するnCl-KOマウス舌咽神経応答は野生型に較べ有意に低下し、nClは口腔内の塩味受容に関与すると推定した。nCl導入培養細胞を用いた塩味増強物質の探索が可能になった。
WHOは成人の食塩摂取目標値を5g/日以下に推奨している。塩分の過剰摂取は、高血圧、心疾患などの生活習慣病のリスクを高めている。しかし、塩味は食品の美味しさを決定することから、食事や食品製造において減塩は難しい。現在、旨味料や香辛料などの添加により塩味を代替する方法が行われている。それは塩味を測定するスクリーニング系がないためであり、増強物質の開発は国際的にも進んでいない。本研究で見いだしたnClチャネルを導入したHEK293培養細胞系は、NaCl溶液を増強する物質探索技術として有効である。本研究の成果は学術面のみならず、減塩による健康長寿社会の面からも貢献するものである。
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