研究課題/領域番号 |
18KK0323
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研究種目 |
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))
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配分区分 | 基金 |
研究分野 |
哲学・倫理学
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
圓増 文 東北大学, 医学系研究科, 講師 (60756724)
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研究期間 (年度) |
2019 – 2024
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
10,790千円 (直接経費: 8,300千円、間接経費: 2,490千円)
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キーワード | 出生前検査 / NIPT / 選択的中絶 / 自律 / 義務 / 責務 / 優生学 / 権利 / 中絶 / 差別表出論 / 出生前診断 / 出生前スクリーニング / 義務論 / 公的出生前スクリーニング / 生命倫理 |
研究実績の概要 |
本研究は、日本および西洋社会(オーストラリア、ニュージーランドを含む)の出生前診断に関する政策や規制、歴史的経緯の違いを念頭におきつつ、日本とこれらの社会の共通の課題を抽出し、その課題を検討する枠組みとして、自律以外の概念に依拠した枠組みの構築を目指している。特に本研究では義務や責任の概念に着目している。本年度は、昨年度に引き続き、出生前検査の普及が進んでいるオーストラリアに着目し、Monash大学Bioethics Centreでの在外研究を通じて、この領域での基本的倫理原則として強い影響力をもつ「自律」概念やそれに代わる概念としての責任や義務についての当該国での議論の動向を整理すると共に、近年のNIPTの急速な拡大に伴う課題をめぐる議論の動向を調査した。さらに、同Centreより研究者を招聘し国際セミナーを開催することを通じ情報収集・意見交換を行った。その結果、以下の成果を得た。 1)生殖の自律概念の無制限な拡大に伴う倫理的懸念(例えば主要トリソミー以外の胎児特性のうち、どこまでの特性を妊婦のニーズに応じて提供していくべきか)に対応する方途として、リベラル優生学や親の責任概念に注目した議論が複数の論者から展開されている一方で、批判も多く、これらの議論を参考にして義務・責務に依拠した議論を体系化するには、まず日本の優生学をめぐる議論と上述の議論との対比を行う必要があること。 2)日本の特殊性の明確化:オーストラリアや他の西洋圏での議論の動向を整理することで、日本の議論の特殊性を明確化することができた。日本では特に、出生前検査の文脈では女性の自己決定権や自律概念をめぐる課題の指摘が多い一方で、中絶や育児等関連する他の領域での自己決定や自律概念に関する課題にあまり注意が向けられておらず、今後はこれらをめぐる制度の整合性を政府・社会の義務・責務の観点から再検討する必要があること。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
パンデミックの影響により当初計画していた1年間の渡豪計画を実施できなかったものの、代替策として短期間の渡豪を2回(計5か月)行い、研究発表および意見交換の時間をその期間に集中的に行うことができた。さらに渡豪先のMonash大学の研究者を日本に招聘し国際セミナーを実施することで、本研究課題の遂行に必要な意見交換の時間を十分持つことができた。 また在外研究期間を縮小せざるを得なかった背景には、研究費の柔軟な利用が困難であったこと(次年度まで延長の正式決定が直前になり、年度をまたいだ在外研究が困難だったこと、世界的物価高・円安への十分な対応がなく経済的な問題に直面したこと)等の事情も大きい。この点については今後の科研費の運用に関する制度上の対応を期待する。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では、Monash大学Bioethics Centreにおいて1年間の在外研究を行う予定であったが、パンデミックおよびその後の世界・国内情勢の変化(特に物価の高騰および円安)、職場環境・家庭環境変化、科研費の運用上の問題等、諸般の事情により、今後さらなる渡豪は困難である。代替策として、同Centreより研究者を再度招へいし、セミナーを開くことで、オーストラリアでのNIPTに関する現状と課題について情報収集すると共に、同研究者および日本の研究者と日欧の現状と課題を共有し、相違点・共通点について意見交換を行うことで、両国に共通の課題とそれに取り組むための倫理的検討枠組みの構築を行う。さらに、日本だけでなく、アジア社会全般に目を向け、研究会を開催し、各国の歴史・制度・普及の現状・考え方に関する専門家との意見交換および文献調査を通じて、日本との比較を行う。これを通じて日本の状況や課題の特殊性を明確化すると共に、共通の課題と基本原則の整理を行う。
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