研究課題/領域番号 |
18KK0352
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研究種目 |
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))
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配分区分 | 基金 |
研究分野 |
社会学
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研究機関 | 東京大学 (2021-2023) 上智大学 (2019-2020) 神奈川大学 (2018) |
研究代表者 |
八尾 祥平 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任研究員 (90630731)
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研究期間 (年度) |
2019 – 2024
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
15,470千円 (直接経費: 11,900千円、間接経費: 3,570千円)
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キーワード | パイナップル / ハワイ / 台湾 / 沖縄 / 産業の国際移転 / 植民地からの近代化 / 労働問題 / 近代化 / パイン産業 / 労働 / 移民 / 台湾人 / 沖縄人 / 日系人 / 華僑華人 / 労働運動 / 製糖業 / 製缶業 / グローバルヒストリー |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、パイン産業の国際移動の歴史を労働問題との関わりから分析する。パイン産業の国際移動の歴史は、ひとつの地域、あるいは、ひとつの民族だけを分析しただけでは全体像がつかめないため、複数の地域と民族の結びつきを分析する。本研究での全体像を明らかにした上で労働をめぐる問題を考察すると、これまでのパイン産業史の研究では見逃されてきた経済開発によるグローバルな収奪の構図を明らかにすることができる。
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研究実績の概要 |
本国際共同研究の主たる課題は、ハワイ・台湾・沖縄・フィリピンといった環太平洋の島嶼地域間でパイン産業の近代化と国際移動によって引き起こされた労働問題を国際移動する労働者の視点から解明することである。基課題では、沖縄を中心にパイン産業の複数帝国(勢力圏)間移動を主に産業技術の面から取り上げたのに対し、本国際共同研究では、(1)沖縄という地域を越え、環太平洋の島嶼地域間を移動した労働者に分析の焦点をあて、(2)各地域の労働運動と他の島嶼地域の労働問題との連関を解明し、英米圏でのパイン産業史研究に未だ根強い産業近代化肯定論を批判的に検証することである。 令和5年度は昨年度に引き続き、(1)海外共同研究者である中央研究院台湾史研究所・林玉茹研究員(教授に相当)が主宰する研究グループとの研究活動と、(2)台湾での史資料調査およびフィールド調査を実施した。 (1)については、林研究員による清末期の台湾の物流と信仰の重層的なネットワークについてのフィールド調査や研究会に参加し、ウェスタンインパクトによる台湾社会の変容を、台湾だけにフォーカスするのではなく、グローバルな視座で台湾を捉えなおすという台湾史の最先端の研究とその手法を学んだ。 (2)について、昨年度から引き続き、林研究員から適宜アドバイスを得ながら、台湾にしかないパイナップル産業や台湾経済史に関する史資料の収集を実施した。さらに、新型コロナ禍による行動制限が緩和されたことを受け、フィールド調査も実施した。 こうした研究成果の一部は、2024年8月に中央研究院台湾史研究所主催の講演会『鳳梨與戰爭』として公表した。また、WEBサイト『みんなの台湾修学旅行ナビ』で「郭元益博物館」や「新北市坪林茶業博物館」の項目などを担当し、一般向けのアウトリーチ活動も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は昨年度に引き続いて台湾での史資料調査した。さらに、今年度より新型コロナによる行動制限が緩和されたことでフィールド調査も実施することができた。 これらの調査によって得られた結果を、パイン産業と総力戦体制とのつながりに焦点をおいて分析を進めることができた。缶詰はもともと糧食として発明され、歴史的に軍事との関わりが深い産業である。また、1930年前後から始まる産業統制化は缶詰産業も決して無関係ではなかった。とりわけ、台湾のパイン産業の経営統合は日本本土での缶詰産業の統制下より早く、いわば、「テストケース」として位置づけられるプロジェクトであったことが示唆された。こうした発見は近代化は日本本土から植民地へと伝播するととらえてきたこれまでの近代化とは異なる、植民地からの近代化の潮流として本研究が位置づけられることを再確認することになった。 その一方で、産業統制化と大きく重なりあう時期に台湾農村では労働争議などの社会運動が激化していた。台湾中部・南部の農村はこうした労働運動の盛んな地域であり、世界恐慌後にパイン産業の統制化が必要とは認識されながらもパイン工場を1社に経営統合するプロジェクトに時間を要してしまったことの背景の一つになっていた。パイン産業に限らず、同時代の台湾農村の状況とあわせて台湾パイン産業の経営統合について新たな意義を明らかにすることができた。 これまでの研究成果の出版についてはスケジュール調整を行った。具体的には、これまでの研究成果の一部を学生向けにまとめなおし、大学での講義で実際に用いてそこでのリアクションやディスカッションを踏まえてリライトを行った。このため、研究成果は来年度刊行することとなった。 以上から、研究の進捗状況は進展している面もあるものの、「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は下記の2点を軸に研究調査活動を進める予定である。(1)研究成果の出版、(2)必要に応じた史資料調査・フィールド調査。 (1)について、本科研および基課題による研究成果を『パイナップルと「日本人」』として岩波書店より出版することを予定し、現在、編集作業中である。 (2)について、調査自体はほぼ完了しているものの、研究成果の出版にあたり、追加的に資料収集する必要が生じた場合に追加的な調査を実施する。
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