研究課題/領域番号 |
18KK0391
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研究種目 |
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))
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配分区分 | 基金 |
研究分野 |
物性Ⅱ
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研究機関 | 大阪公立大学 (2022-2023) 大阪市立大学 (2018-2021) |
研究代表者 |
竹内 宏光 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 講師 (10587760)
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研究期間 (年度) |
2019 – 2024
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
15,080千円 (直接経費: 11,600千円、間接経費: 3,480千円)
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キーワード | フェルミ超流体 / 自発的対称性の破れ / 量子渦 / 位相欠陥 / BEC-BCSクロスオーバー / 回転超放射 / 素励起 / 非平衡ダイナミクス / ソリトン |
研究開始時の研究の概要 |
相転移によって発現する自発的対称性の破れ(以下SSBと略す)は,南部陽一郎氏によって超流体(あるいは超伝導体)の理論的類推から素粒子物理に応用された.この事実からもわかる通り,SSBは分野を跨る普遍的な概念である.そのため,その理解の進歩は物理界全体の発展に直結する.本研究では,SSBの物理現象,とりわけ,相転移のダイナミクスに関して,未踏の研究領域を開拓する目的で,フェルミ粒子からなる超流動の時間発展を記述する動的理論の開発を行う.この動的理論について先駆的研究を行っているベルギーのアントワープ大学の研究グループに長期間滞在し,国際共同研究を実施する.
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研究実績の概要 |
(1)巻き数2の量子渦の安定性 ベルギーのアントワープ大学J. Tempere教授の理論グループに約3ヶ月間滞在し,フェルミ超流体中の量子渦の基本的な運動について理論的な研究を実施した.滞在期間の前半には,パンデミックによって中断していた,巻き数2の渦の安定性の問題について主に議論を行った.絶対零度において,ボース超流体中の巻き数2の渦の不安定性の機構は先行研究で明らかになっており,巻き数2の渦が2本の巻き数1の渦に分裂すると同時に角運動量を持ったフォノン(音波)を放出する.この機構は回転するブラックホールにおける回転超放射と類似しており,この過程で最初に渦が持っていたエネルギーと角運動量がフォノンによって持ち去られる.本研究において,フェルミ超流体中の巻き数2の渦の安定性に関するBEC-BCSクロスオーバーを調べたところ,BEC極限では上記ボース超流体と同様にフォノンの放出が起こるが,BCS極限ではフォノン放出が起こらないという対照的な結果を得た.一方,両極限の間に存在するクロスオーバー領域では,フォノンの放出がむしろ増幅されるという結果を得た.得られた成果は滞在期間終了直後に学術論文として米国物理学会誌に投稿し,2023年度中に査読を終えて既に出版されている.
(2)渦の散逸運動と渦質量 ベルギーの滞在期間の後半には,量子渦の散逸的運動と渦質量について議論を行った.韓国のソウル大学のY.Shin教授の実験グループとはフェルミ超流体中の渦の散逸的運動の実験観測について議論を行った.一方,韓国のKAISTのY.Choi准教授とは,ボース超流体において渦質量の効果が重要となる系について,実験的な実現性について議論を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度を論文を発表したことにより,ベルギーの理論グループと共同で発表した論文は合計2編となった.いずれも絶対零度におけるフェルミ超流体中の位相欠陥の基本的な挙動について新たな物理現象を理論的に予言した.現時点で当初の最低限の目標は達成したと言える.当初の計画では理論を多自由度のフェルミ超流体へと拡張する狙いがあったが,別の問題として,量子渦の散逸的運動と渦質量の問題が浮上しており,現在その問題に取り組んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
上述の巻き数2の渦の分裂過程においてフェルミ超流体のBCS極限ではフォノン放出が起こらないことに関して,量子渦に束縛された準粒子が寄与していると考えられる.それを定量的に理解するためには本研究で取り扱っている模型を超えたさらに微視的な理論を導入する必要がある.この準粒子の束縛状態に関連して,有限温度下における渦の散逸的挙動や,質量をもつ渦の挙動の問題が浮上してきた.このような挙動について実験的観測が近い将来期待され,その理論的予言・解釈が必要である.とりわけ,渦質量の問題はフェルミ超流体だけでなく,ボース超流体においても長年の未解決問題であり,一般的な視点から理論を展開することが有効である.したがって,渦質量の問題についてはボース超流体の実験グループとも連携を取りながら実施していく予定である.
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