研究概要 |
単分子磁石とは一つの分子が磁石として振る舞う化合物であり,この20年間に分子磁性の分野では最も注目を集めている化合物群である.その合成に際し,大きな基底スピン多重度と容易軸型の磁気異方性の導入・制御が重要であるが,その実現のためには重希土類金属イオン,特にテルビウムやジスプロシウムの利用が有効である.2004年にTb-Cu二核錯体系として初めての単分子磁石が報告されて依頼,今日まで10例ほどの希土類系単分子磁石が報告されている.このような化合物群を対象とし,本課題研究では希土類金属イオンと周囲の金属イオンとの相互作用の解明,光による分子磁性の制御を目指した物質系の創成と、その詳細な物性・機能性の解明を目指し,研究を行った.光による分子磁性の制御を行うためには,希土類系の単分子磁石合成の設計指針の確立,つまり,確実に単分子磁石となりうる条件・ならない条件を明らかにする必要性がある.本研究では構造的にほとんど違いがないのにもかかわらず,単分子磁石として振る舞う錯体・振る舞わない錯体の1対について詳細な磁気挙動の測定を行い,このような違いが希土類金属イオン周りの配位構造の違いに起因する磁気異方性の違いに帰着できることを見出した.その結果,テルビウム(III)イオンは一般に容易軸型の磁気異方性を有すると考えられていたが,配位構造によっては困難軸型ともなりうること,また,容易軸型の異方性についても,結晶場構造の設計によりその特性を強化することが可能なことを見出した.以上の結果より,分子構造の設計に基づいて単分子磁石挙動を制御するための設計指針を示すことに成功した.
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