研究概要 |
本研究の目的は, (1) がん患者のサポートグループにVRコミュニケーション・システムを導入することが, 患者の精神的健康と相互扶助的コミュニティ形成を促進することを明らかにし, (2) 大量のチャット情報を患者支援のために活用する分析手法を開発することにある. 分析対象は, がん患者とファシリテータによる4年3ヶ月にわたるチャットログである. 会話は仮想空間上でアバターを用いて, 1週1回1時間半のペースで2-6名が参加して行われた. 主な結果は3つである. 第1に, 発話における社会的サポートの種類と出現頻度を検討した結果, 1年目に比べて3年目には, がんや健康, オフ会に関する情報的サポートや友好的発言の比率が上昇した. これは参加者同士のオンラインとオフラインの両方における社会的絆の多層的形成とコミュティの成熟を示す. 第2に, 4年間継続参加している3名の全チャットログデータについてテキストマイニングをおこない, 発話内容の経年変化に関する分析をした. その結果, 病気・身体に関する語の出現率が時間経過によって上昇した. これは, 信頼感形成による自己開示の促進と考える. また, 感情語に関しては, ポジティブ語はネガティブ語よりも出現率が高くかつ上昇した. これは, コミュニティの雰囲気が好ましく, 患者に良い効果を与えたと考える. 第3に, 発話交替パタンの分析の結果, ファシリテータがいる場合は, 初期はファシリテータに参加者の発言が集中していたのに対し, 1年後にはファシリテータ以外に対する発言が増え, 発言方向の偏りがなくなった. 一方, ファシリテータが参加しないセッションが増え, その場合, 初期では参加者間での発言方向の偏りは見られないが, 3年後には, 特定の参加者に向けて発言が集中するようになった. これは時間経過によってコミュニティが成熟し, ファシリテータ役が現れるかたちでの自律性が高まったためと考える.
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