研究概要 |
センサー・計測技術の発展により, 医療, 気象, 社会安全をはじめとする様々な分野で膨大な多変量時系列データの蓄積が可能となった。例えば医療分野では数十〜数百項目からなる臨床検査の記録が日々蓄積されており, その数は研究代表者の所属する島根大学医学部附属病院の場合で年間15万件以上, 診療記録等を含めたデータ量は年間45GBに及ぶ。これらの多変量時系列データは観測対象の時空間的な特性を探る上で非常に有用であり, その横断的解析を通じてこれまで未知であった時間変量間の関連性, 時間変化の全体的, 部分的共通性あるいは例外事例の存在など有益な知識の獲得が期待される。しかしながら, 多変量時系列の分類問題が内包する(1)変量間の共変化関係をどのように捉えるか, (2)時間変化をどの粒度で捉えるか, の課題については現在のところ有効な解決方法が提案されておらず, その確立が急務となっている。 本研究では, 従来の周波数, 頻度, 抽象化等を基礎とする時系列解析とは異なり, 時空間軌跡の有する方向性と幾何的特徴に基づく新たな自動分類法を研究・実装した。これにより, 解析者が軌跡の類似性を分類結果から直接的かつ容易に認識・理解できる時空間データマイニングシステムを具現化できた。さらに, 軌跡の類似性評価に多重視野比較を導入することで, 時系列マイニングで一般的に問題となる観察視野依存の問題が解決でき, 膨大な時空問情報の横断的解析に関する研究開発の第一歩を実現, 少なくとも医学・医療分野において有効であることを実証した。
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