研究概要 |
本研究では,様々なリン酸エステル誘導体とフッ化物イオンとの反応を検討した。P-F結合は大きな結合解離エネルギーを有するため,フッ化物イオンの,リン原子上での置換反応は既知であるが,これをリン酸エステルに適用した例はなかった。一方われわれが,セレノリン酸2-トリメチルシリルエチルエステルとフッ化物イオンとの反応を検討していたところ,Se-エステルでは,P-Se結合が選択的に切断されること,0-エステルでは,Si-C結合が選択的に切断されることが明らかとなった。そこでリン酸0,0-ジフェニル,0-1-メンチルエステルとフッ化物イオンとの反応を行った。その結果リン酸エステルのフッ素化加水分解が進行し,モノフッ化リン酸アンモニウム塩を良好な収率で与えた。この反応ではアリールオキシ基の脱離が選択的に進行し,アルコキシ基はリン原子上に残っている。コレステリル基やアダマンチル基など様々な炭素骨格を有する系にこの反応を適用できた。さらにリン酸アミドへもこの反応は適用でき,同様の反応が進行し,これまで前例のないものフッ化リン酸アミドアンモニウム塩を与えた。一方亜リン酸エステルとフッ化物イオンとの反応では,ボスホン酸塩を選択的に与えた。最後に亜リン酸アミドに対してフッ化物イオンを作用させ,アルカリ処理することで,アミンを高収率で回収できた。すなわちP-F結合の親和性を駆動力とする反応は,反応基質依存の経路を経た反応が進行するが,いずれも高い選択性を示した。
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