研究概要 |
本研究は、高周期14族および15族元素を含むπ電子系と遷移金属のd電子系からなる新規なd-π電子系の構築とその物性解明を行い、典型元素π電子系と遷移金属元素の相乗効果の解明を目的としている。本年度は、新規物性発現が期待できるアゾ化合物の高周期類縁体について検討を行った。既に合成に成功しているフェロセニルジホスフェンTbtP=PFc(Tbt=2,4,6-[CH(SiMe_3)_2]_3-C_6H_2,Fc=ferrocenyl)のさらなるπ電子拡張を目的とし、フェロセンの二つのCp環にP=Pユニットを組み込んだ、1,1'-ビス(ジホスフェニル)フェロセンの合成を検討した。その結果、初めての安定な1,1'-ビス(ジホスフェニル)フェロセンである(ArP=PC_5H_4)_2Fe(1:Ar=Tbt 2:Ar=Bbt, Bbt=2,6-[CH(SiMe_3)_2]_2-4-[C(SiMe_3)_3]-C_6H_2)の合成に成功し、その構造・物性を解明した。特にUV/visスペクトルにおいて、フェロセニル基のFe部位とP=P二重結合部位のMLCTに相当するバンドが観測されたことは興味深い。またサイクリックボルタンメトリーにより、1および2の酸化還元挙動を解明した。1および2は、ジホスフェン部位の還元に由来すると考えられる領域に、それぞれ二つの可逆な-電子酸化還元波が観測され(1:-1.84,-2.89V,2:1.78,2.13V vs Ag/Ag^+)、分子内の二つのP=Pユニット間に電子的な相関が存在することが支持された。さらに2と6族金属錯体[M(CO)_5(CH_3CN)](M=Cr, Mo, W)との配位子交換反応を行い、新規な複核錯体である[M(CO)_4(ArP=PC_5H_4)_2Fe]の合成に成功した。今後、これらの物性を詳細に解明し、高周期15族元素間π電子系と、9族および6族遷移金属との相乗効果を系統的に解明する。
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