研究概要 |
我々は既に,鉄一銅協同触媒を用いるとアルキンのアリールマグネシウム化反応が良好な収率で進行することを報告していたが,同様の触媒系がアルキルGrignard反応剤のより安定なアルキルGrignard反応剤への異性化にも有効であることを明らかにした.例えば,臭化2-ヘキシルマグネシウム(1当量)にFeC13(2.5mo1%)およびCuBr(5mo1%),トリブチルホスフィン(10mo1%)をTHF中-25℃で10分間作用させた後,存在するアルキル金属種をクロロシラン(2当量)との反応でアルキルシランとして捕捉したところ,1-ヘキシルシランのみが収率78%で得られ,臭化1-ヘキシルマグネシウムヘの異性化が完全に進行していることがわかった.鉄触媒のみでは異性化率は3%,銅触媒のみでは異性化が全く進行しなかった.同様の条件下,他の2-アルキルGrignard反応剤も1-アルキル体に異性化する.鉄錯体位β-水素脱離および向きを変えてのヒドロ鉄化によってアルキル基の異性化を担当し,銅錯体は鉄およびマグネシウムとトランスメタル化することで,これら金属間での有機基のやり取りを仲介するという協同触媒作用が働いていることが判っている.また,同様の条件下,様々なアルキンに対するアルキルGrignard反応剤の付加反応が進行することも明らかにしている.これらの成果は,未だ例が多くない協同触媒の分野に新たな触媒系を提供するのみならず,鉄・銅・マグネシウムという何れも安価で毒性の低い金属反応剤を用いて有用な合成反応を実現するという観点からも意義深いものであると言える.
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