本研究では、非対称置換Cp基が金属に配位すると面不斉を誘起することに着目し、面不斉Cp錯体を用いて高立体選択的な触媒反応を開発することが目的である。我々はこれまでに、非対称三置換Cp基を有する面不斉ルテニウム錯体を分子設計し、高エナンチオ選択的なアリル位アミノ化及びアルキル化反応の触媒として機能すると共に、アルキル化剤の量を調節することによって炭酸アリルの速度論的光学分割にも応用可能であることを明らかにしている。今年度は、非対称置換アリル化合物の反応でルテニウム触媒が高い分岐選択性を示すことに着目し、フェノール類を求核剤に用いて一置換ハロゲン化アリルとの反応について検討した。その結果、3mo1%の触媒存在下、THF中で塩化シンナミルとo-クレゾールを30℃で24時間反応させると、91%収率、95%eeで分岐エーテルが生成することを見出した。本系は、様々な置換基を持つフェノール及び塩化シンナミル誘導体との反応に適用でき、いずれの場合も高収率かつ高選択的に分岐エーテルを与えた。また、基質の物質量比と塩基の量を調節することにより、メタノールやベンジルアルコールにも応用できた。反応機構に関する知見を得るために量論反応について検討したところ、π-シンナミル錯体を単離することができ、x線結晶構造解析によりその構造を明らかにした。π-シンナミル錯体もフェノール類の立体選択的な0-アリル化反応の触媒として機能し、π-シンナミル錯体にフェノキシドを作用させると立体選択的に分岐エーテルが得られたことから、π-シンナミル錯体が本触媒反応の中間体であることを確認した。さらに、生成した分岐エーテルとπ-シンナミル錯体の立体化学を比較することにより、π-シンナミル基への求核攻撃が金属側から起こることも明らかなった。
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