研究概要 |
本研究では,余剰電子を含む分子集団(気相分子クラスター)に特有な「強い振電相互作用を伴う構造変化」に着目し,ナノスケール分子集合系の電子状態・幾何構造のゆらぎ,すなわち「構造変化ダイナミクス」の特徴を明らかにすることを目的として,以下の2つの研究テーマを実施した. 1.電子の局在⇔非局在のモデル系である(CO_2)_6^-の電子構造異性化課程CO_2^-.(CO_2)_5⇔C_2O_4^-.(CO_2)_4について,構造変化ダイナミクスをab initio MDで追跡する際の基礎データとして,電子構造異性体として可能な局所安定構造をMP2計算によって網羅的に検索した.その結果,50種を越える異性体構造に対応する局所安定構造を得た.実験では,赤外光解離分光によってプロトン性分子が(CO_2)_n^-の構造異性体分布に及ぼす影響を調べ,異性体の安定化と溶媒和構造との関係を明らかにした. 2.水和電子の溶媒和構造の成長および水素結合ネットワークの分子取り込み過程に対応する(H_2O)_n^-+ROH→ROH・(H_2O)_n^-の過程を,(H_2O)_n^-Ar_mを含む超音速ジェットへのエントレインメント法を用いて実現し,光電子イメッジング分光法によって,"取り込み反応"に伴う水素結合ネットワークの構造変化を調べた.その結果,(H_2O)_n^-がD_2O,CH_3OHなどを取り込んだ際に,電子-水素結合(e…H-O)を保持しながら水素結合ネットワークの大規模な構造転移が起こることを明らかにした.また,核と電子の運動を同時に取り扱うことが可能な計算手法を用いて,取り込み反応に伴う水素結合ネットワークの構造変化を計算するための共同研究に着手した.
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