研究概要 |
本研究では,異種金属間の相互作用に基づく新たな物性の発現が期待できる化合物群や,紫外光などの外部刺激により変化した励起状態の構造を観測することができる化合物群を合成し,理論化学者・計算化学者の協力を得ることにより実験化学的なアプローチだけでは解き明かすことができない物性や化学反応の本質に迫ることを目標としている. 本年度は,段階的合成法により3,5位にメチル基を有するピラゾラト配位子(Me_2pz)を用いて白金(II)イオン2,金(I)イオン2,銀(I)イオン2または銅(I)イオン2,およびジメチルピラゾラト配位子(Me_2pz)8の比からなる多核錯体[Pt_2Au_2M_2(μ-Me_2pz)_8](M=Ag,Cu)を合成し,発光特性を調べた.これらの錯体は,紫外部にしか吸収を持たないので無色であるが,固体状態で紫外光を照射すると,Pt_2Au_2Ag_2錯体は水色の,また,Pt_2Au_2Cu_2錯体はオレンジ色の発光を示した.このように,混合金属錯体に含まれる銀(I)イオンと銅(I)イオンの違いにより発光スペクトルが大きく異なる,すなわち,分子内に導入する金属イオンの違いにより,発光エネルギーを制御できる可能性が示唆されたことは極めて興味深い.そこで,理論化学者との共同研究により,これらの錯体の吸収および発光に関与している電子状態を明らかにした.その結果,Pt_2Au_2M_2錯体の電子状態はPt_2M_4錯体の電子状態によく似ており,Pt,Auの6p軌道とAgの5p軌道またはCuの4p軌道の全てがin-phaseで重なった軌道がLUMOになっていることが分かった.また,Ptのd軌道やCuのd軌道からこの特徴的なLUMOへの遷移が吸収や発光に関与していることが明らかになった.
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