理論化学により溶液内の光励起反応過程を研究していくには、理論的方法論としてまず、溶質の分極を記述するために電子状態を高精度で求めることができるようにしておく必要がある。そこで、我々は溶媒の分布があらわに考慮された条件のもとでの溶質の電子状態を求め、さらに溶質分子の電子状態が時間に依存してどの変化していくかを可能にする方法論の拡張を試み、数十フェムト秒領域の溶媒の分布を時間依存の形で記述する解析式を導出し、以前に我々が提案した緩和過程の理論的研究の方法論をさらに光励起直後の短時間領域での緩和過程プロセスへの適応が可能となる形式に拡張をすることを可能にした。本研究では短パルスレーザーによる分光実験データ等により指摘されてきているような、励起後特に約100フェムト秒前後で起こっているとされている溶媒和過程まで解析が可能になることを念頭におき、これらの方法論をベタイン色素分子系での光反応過程へ応用し、溶液内での短時間のダイナミクスの研究を計画、遂行した。相当する時間領域での電子状態変化を追跡、研究した結果からこれらの時間領域においても電子状態の変化は顕著に表れ、励起後の化学反応プロセスにおおきな効果をもたらしていることを示してきた。また溶媒和過程とほぼ同時に分子内電子移動反応が生じていることも示され、特にアセトニトリルにおける励起状態(S_1)での分子内電子移動反応についてはBetaine30を用いた場合の実験結果との非常によい一致がみられ、分子内電子移動反応の時定数などを求める際に本研究で提案したモデルと方法論が有効であることがわかった。
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