新型半導体MPPCを多くの高エネルギー実験で使用できるようにすることを目的として、ネックなっている熱雑音ノイズの低減を目指した研究をおこなった。 多くの高エネルギー実験は放射線環境下(特にγ線と中性子線)で行われるが、2007年6月に行われた国際研究会にて放射線損傷により熱雑音を増加させてしまうことが報告された。多くの加速器実験で問題となる中性子被爆による熱雑音の増加を定量的に評価することが、実験での使用の可否を判断する上で重要になった。そのため、2007年11月にMPPCに中性子を照射する試験を行って熱雑音の増加を評価した。その結果として、中性子照射量が3×10^<10>[n/cm^2]の場合には熱雑音が約50倍になってしまうことが分かった。同時に、3×10^<10>[n/cm^2]までの中性子照射量では熱雑音以外の基礎特性は大きく変化せずに一光子検出能力をもつことが確認できた。これにより、冷却によって熱雑音を十分に減らすことができれば3×10^<10>[n/cm^2]までの中性子被爆量の高エネルギー実験でMPPCを使用することが可能であるとわかった。 実際の高エネルギー実験での使用を想定した冷却方法の検討と試作を行った。多くの場合MPPCはシンチレーション検出器からの光ファイバーを通して検出する。その場合には光ファイバーと接続するコネクターの内部にMPPCが挿入されることとなる。そのため実用性を考慮して、MPPCをコネクターごと冷却する冷却モジュールを設計した。さらにT2Kニュートリノ実験で使われているコネクターに合わせて熱伝導のよい銅を用いた伝熱部品を設計・製作し、それを通じてペルチェ素子によりMPPCから吸熱する冷却モジュールを試作した。
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