研究概要 |
ヒトのガン関連遺伝子のようにソフトな相互作用をする蛋白質は創薬のターゲットとなっている. しかし, これらの蛋白質は単独では特定の立体構造を形成しない不定形配列を有するので, 凝集しやすく立体構造を解析しにくいという問題がある. 蛋白質の凝集を防止し結晶化に利用されてきたnon-detergent sulfobetaine(NDSB)のNMR測定への応用を我々は主に研究した. その成果を以下に列挙する. 1. NDSBは種々の蛋白質の熱変性温度を上昇させた(0.5Mで約4℃). これによりNMRの測定温度は10℃以上上げる事ができ, 質の高いスペクトルが得られるようになった. 2. 常温でのNMR測定における蛋白質の凝集はグルタミン酸とアルギニンの等モル添加により防止される事が示されているが, この添加物は高温での安定性は向上させなかった. また, グリセロールはシグナルをブロードにするので, 高温での測定にはNDSB類がベストであった. 3. 市販のNDSBは重水素化が困難なので, 重水素化が可能なNDSB-newとその重水素化物を合成した. NDSB-newは強い凝集防止能を示した. また, 重水素化NDSB-newの存在下でaFGFの構造をNMRで決定した. その構造はX線で決定した構造と有意な差がなかった. 4. NDSB-newは安価に大量に合成する事が可能であり, 蛋白質の精製過程でbufferに添加する事も可能である. 凝集しやすく濃縮中に沈殿してしまう2種類の蛋白質はNDSB-newの添加により濃縮でき, 濃度も収率も20倍以上に上げる事ができた.
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