研究概要 |
ヒト・ミトコンドリア内膜のABC輸送体ABCB6は, 膜貫通ドメインとABCドメインからなり, 鉄の恒常性を保つことで, 鉄の蓄積による酸化的損傷を抑えつつ, 酸化的リン酸化などのミトコンドリア機能の維持に寄与すると考えられている. 一方で大腸菌NikA(56kDa)は, ペリプラズム結合蛋白質(PBP)の一員であり, Ni輸送や走化性に寄与している. ABCB6のC末端ABCドメイン(ABCB6-C)については, ホモロジーモデリングで得た構造の検証と精密化を行った. 大腸菌NikAについては, 走化性受容体Tar細胞質領域との相互作用の解析を試みた, TarはNiに対する負の走化性に関与している. この試料についてNMR測定条件の最適化を行い, Tar側の主鎖NMRシグナルの帰属を試みた. また, 2^H/<15>^N標識NikAとTarのタイトレーション実験や交差飽和実験などを行うことによって, NikAと走化性受容体の相互作用のメカニズムの解析を進めた. また, 本研究で取り上げた試料のうち, ABCB6-Cは溶解度が低く, NMR測定温度での安定性が低いという問題があり, NikA/OppAは高分子量試料であるが故に高感度・高分解能の測定が要求された. これらの問題を克服し, 高感度でかつ迅速に3重共鳴NMR測定を行うために, 間接観測軸に非線形サンプリングを採用し, 最大エントロピー法を用いたデータ処理を行う方法の開発研究も並行して行った, この方法論的研究は, 上記ABCB6-C, NikA/OppA試料のみならず, 生細胞内の蛋白質動態を解析するためのin-cell NMR研究にも適用され, 様々な成果を得ることに成功している.
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