研究概要 |
ボツリヌス神経毒素と脂質受容体の相互作用を検討するため、A, B, C, D, E型毒素の受容体結合領域の組換え体(Hc)を作製し、GD1b,GT1b及びホスファチジルエタノールアミン(PE)への結合についてBIACORE2000を用いて検討した。その結果、GD1b,GT1bに対してはC型Hcのみが結合し、PEに対してはD型Hcのみが結合した。A, B, E型毒素の結合にもガングリオシドが関与すると考えられているが、本実験では結合が認められなかったことから、C型毒素は他の型に比べてガングリオシドへの親和性が特に高いことがわかった。また、牛ボツリヌス症から新たに分離された菌が産生するD/Cモザイク毒素の結合特異性を調べた。D/Cモザイク毒素由来HcはC型Hcと77%の相同性をもつことから、各種ガングリオシドへの結合活性を比較検討した結果、C型HcはGD1b>GT1b>GQ1bの強さで結合したのに対し、D/CモザイクHcはGQ1b>GT1b>GD1bの強さで結合した。このことから、C型毒素及びD/Cモザイク毒素と各ガングリオシドの親和性には、糖鎖末端のシアル酸が関与しており、この末端シアル酸はC型毒素では結合を弱め、D/Cモザイク毒素では逆に結合を強める働きがあると考えられた。一方、D型HcはPE含有リボソームに対してわずかに結合し、この相互作用はGDlbやGTlb共存下で増強されることがわかった。D型HcはGD1bあるいはGT1bだけを含有させたリボソームには結合しないため、これらのガングリオシドはD型毒素とPEの結合に対して補助的に働いていると考えられる。本研究で得られた成果は、C型及びD型毒素と他の型との差異を明確にするものであり、毒素の作用機構の全貌を解明する上で重要な知見であると考えられる。
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