研究概要 |
単純な2原子分子である一酸化窒素(NO)は,思いがけない多彩な能力を生体内で発揮する。生体内で通常NOSはLアルギニンを基質とし,NOを合成する。現在,iNOSによるNO産生の効果は殺菌効果と炎症収束効果として理解されている。しかしながら,「細菌感染の場」で時間的、空間的に発現が変化するNOS群,濃度が変化するNOは不明な部分が多い。我々はTLRによる細菌由来分子の認識機構,シグナル伝達経路に着目し,NOがTLRを起点とした自然免疫応答に及ぼす影響を解析した。マウスの腹腔にLPSを投与すると,著名な体温の上昇が観察されるが,eNOS欠損マウスではその上昇の開始が早く開始されていた。また,iNOS欠損マウスでは数十分後にみられる一過性の体温低下が見られないことが分かった。従って,LPSが誘導するTLR4を介した生体防御応答に対して,eNOSとiNOSは,共に抑制効果を示す。LPS投与2時間後の腹腔内のMIP-2やIL6の産生においてもeNOSとiNOSは抑制効果を示していた。eNOSの抑制効果について解析を進めたところ,eNOS欠損マウスでは,LPS刺激後のIRAK-1の活性化とデグラデーションが異常に早く誘導されていることが分かった。細胞培養系による実験により,LPS刺激後に細胞膜に移行するMyD88がNOによって妨害され,細胞質に留まる傾向が観察された。これらNOのMyD88機能抑制効果は一過性であり,グルタチオンの添加によって抑制効果は喪失することが分かった。マウスの肺ではMyD88のSニトロシル化が観察されたが,eNOS欠損マウスの肺ではほとんど観察されなかった。以上の結果から,NOSによって産生されるNOはMyD88をSニトロシル化することで一過性に機能を抑制することが示唆された。
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