研究概要 |
ATP合成酵素はF1とFoの2つのドメインからなる。F1ではAIPの加水分解時に放出される自由エネルギーがγサブユニットの回転エネルギーに変換される。一方, Foは膜蛋白質であり, 膜内外のプロトンの電気化学ポテンシャルがc-ringの回転に変換される。しかし, エネルギー変換の分子機構はまだ謎につつまれているので, この解明を目標として昨年度に引き続き"1分子計算機実験"を行った。 粗視化モデルを用いた1分子計算機実験によって(1)Fo内部でのプロトンの移動経路, (2)ラチェット機構によるFoのc-ring回転, およびF1のγサブユニット回転を調べた。(1)については, これまでの研究でperiplasm側からFo内部への入口経路を見出した一方, Fo内部からoytoplasm側への出口経路が全く観測されなかったため, その原因究明を行った。注目したのは, これまでの研究では考慮していなかった極性アミノ酸(Asn, Gln, Ser等)の寄与である。Fo分子内の極性残基の空間分布とそれによる局所的な比誘電率の違いはプロトン経路に大きく影響すると考えられる。そこで, これまでの粗視化MDプログラムに局所比誘電率とボルン・エネルギー項を実装し, プロトン経路の再調査のための準備を整えた。(2)については, Feymanラチェット機構/Rockingラチェット機構によってc-ring/γサブユニットに一方向性の回転ブラウン運動が生じ, また, 回転方向が外部パラメータに依存して逆転することを示した。これと平行して, ラチェット機構を可能にするタンパク質の柔らかいアーキテクチャーの性質を探るため, 立体構造内部のアミノ酸残基間ネットワークを解析し, タンパク質立体構造の普遍的な性質としてのフラクタル性と臨界パーコレーション性を見出した。
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