研究概要 |
ネットワーク環境を学習基盤とした協調学習(eラーニング協調学習)が高等教育の分野でも注目を集めている.だがその構造的な特性や協調学習環境において創発される学習メカニズムについては, 実はまだよく分かっていなかった.われわれはこれらの問題に対し, 複雑系科学(Science of Complex System)の領域において自然や社会の非線型現象を解き明かすことに成果をあげている方法論を導入し, 自律的な主体(エージェント)からなる仮想環境の中でエージェントベースのシミュレーション分析(Agent-Based Simulation Analysis : ABS 分析) を行った.これによって, eラーニング協調学習の学習メカニズムやそれが効果をもたらすための諸条件の解明に挑んだ.その結果, 学習者が形成するネットワーク構造の特性はミクロレベル(個々の学習者), マクロレベル(学習者全体)の双方において顕著な影響を与えること, 学習者間で形成されるネットワーク構造の特性の違いは協調学習の持続性に影響を与えること, Lotka-Volterra系を応用したモデルを使った分析では, 学習者の特性如何によっては協調学習空間にカオス的な状況(ポジティブな学習効果とネガティブな学習効果が各学習者に対してカオス的に発生する状況)やリミットサイクル的な状況(正負の学習効果が完全に周期的に現れる現象)が発生し得ることなどを明らかにした.さらにこれらの理論研究の成果を活用しわれわれは, 複雑系ネットワーク理論を使った協調学習における人と言葉のネットワーク構造の可視化を行った.その結果, 協調学習における人のネットワーク構造は、リッチクラブ現象やスモールワールド性が観察された。また、このとき交わされる言葉のネットワークにおいても、スモールワールド性が観察された。加えて項目応答理論(IRT)で測定した学生の基礎的なコンピュータ利用能力と合致するように、学習モジュールの「知識度」を可視化するという応用研究も実施した.実用化にはまだ課題があるが、この教材の知識度の可視化は担当教員のセンスと大きく違っているところは無い.
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