研究課題
基盤研究(C)
本研究の課題は、『ドイツ神学』、タウラー、フランク、ベーメ等を代表者とするヨーロッパ近世におけるキリスト教神秘思想文学の精神史の研究である。初年度は、研究基盤を整備するために、以下の調査と研究を行った。1.アウグスト伯図書館およびリトマン図書館において、主に中世末期および近世初期のキリスト教神秘思想文学に関する資料を収集し、また前者図書館資料部長C・ホークレーフェ氏、後者図書館長J・ボウマン氏と研究テーマに関する意見交換を行った。これにより、14世紀末から17世紀前葉におけるオランダとドイツが、古代・中世とはまったく異なった視点からキリスト教神秘思想文学を新たに構築した中心的地域であったことが明らかにされた。2.ライプチヒ大学教授S・リヒター氏、早稲田大学教授田島照久氏、慶応大学教授香田芳樹氏と日欧における神秘思想文学に関する意見交換を行い、東アジアの神秘思想文学とヨーロッパのそれが近世を境にして大きく袂を分かち、とくに後者の思想文学が人間神化論、宇宙論、自然学を主な展開軸として古代・中世のそれを超克する形熊をとりながら、ある種の普遍性を獲得したことが明らかにされた。3.定期的に開催されている神秘思想文学研究会(於青山女子短期大学)にて2度発表を行い、「『ドイツ神学』に見られるキリスト論の特徴」で同書の思想を人性論から探求し、「ベテスダの池に関するタウラーの説教」では心身の癒しの思想を紹介した。上記の成果によって、ヨーロッパ近世キリスト教神秘思想文学の精神史的研究の基盤はほぼ整えられ、初年度の目的は達成できた。なお、これらの成果は、適宜紀要や雑誌等に発表する予定である。