研究概要 |
地図とは、最も「科学的」な地図といわれたものですら,測量術による客観性を基に作られたというよりも,むしろ社会の伝統や文化的規範によって描き出され,生み出されたものである。いかに精妙な地図といえども,人間が描くものである以上,そこには作者の主観的な世界観が,また時代や社会を支配するイデオロギーが介在することを否定することはできない。初期近代英国において重要な文化表象であった地中海地方の「地図」は、シェイクスピア演劇を考察するうえで興味深い。地図の研究を端緒に、イングランド人が地中海貿易を通して経験した異国人との遭遇によって、いかに自己成型(Self-fashioning)を果たしたか、すなわちムーア人、モロッコ人、トルコ人、スペイン人、ユダヤ人等、他者との遭遇・接触が、イングランド人という国民のアイデンティティ形成にいかに大きな役割を果たしたか、という問題を探求した。
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