この研究の目的は、企業による貿易・直接投資などの国際的なビジネス活動は、各国政府および国際機関による教育政策によって、どのような影響を受けているのかを、経済学の手法を用いて明らかにすることにあった。留学生の移動を、高等教育サービスの貿易とみなして、グラビティー・モデルを用いて、受入国、派遣国の国内総生産、および、二国間の距離を基本的な説明変数として、推計したところ、統計的に有意な結果を得られた。さらに、受入国の大学教員数など、教育政策に関する変数を説明変数に加えたところ、留学生の移動は、教員数などにはほとんど影響を受けないものの、受入国の学生数が多いほど、活発になることが明らかにされた。国際的な人的資本の形成にあたっては、学生による相互学習の形態が重要であると考えられる。また、フィリピンをケースとして、2001年をベンチマークとして、日本、韓国、中国との留学生交流に関して、実際の留学生の受入数と推計値を比較してみた。韓国、中国からの留学生数の実績値が、推計値をはるかに上回っているのに対して、日本からフィリピンへの留学生数については、実績値が推計値を大幅に下回っていることを見出した。東アジアにおいては、発展途上国同士の留学生交流がさかんになってきており、貿易・投資の拡大とともに、人的資本の形成パターンが変化しつつあることを示唆する結果を得られた。発展途上国の持続可能な経済成長を維持していくためには、従来型の途上国から先進国への留学生の移動に加えて、地理的に近い関係にある発展途上国同士の留学生交流を活発にすることで、企業による国際貿易・投資の拡大に資する人的資本が形成されていくものと考えられる。UNESCOなどの国際機関および各国政府の教育政策の協調による人材育成による南南交流の促進が重要と考えられる。
|