研究概要 |
税制が株式投資に如何なる影響を及ぼすかを定量的に明らかにする研究は,わが国でいまだ十分な蓄積がない。我々はその間隙を埋めるべく,研究の第一段階として、社団法人証券広報センター実施の『証券貯蓄に関する全国調査・平成12年度版』の個票データを用いて,配当課税が家計の資産選択行動に与える影響を探った。平成12年当時,配当所得課税の制度は,1銘柄あたりの配当額に応じて,源泉徴収,申告納税,およびその選択と複雑になっていることから,家計ごとに異なった限界税率を推計することが可能である。株式需要額と予定保有期間を被説明変数として,そうして算出した限界税率で,資産保有額,年齢などとともに回帰した。その際,これら被説明変数が閾値の知られた質的変数で,しかもその最上位選択肢には上限閾値が無いことに鑑み,順序型(ordered)Tobitモデルで推計した。その結果,配当税率の上昇は株式需要を押し下げ,保有期間を引き延ばすことが示唆された。 第一段階の研究成果は、『証券貯蓄に関する全国調査』の平成12年度分のみに依拠しており、そこで述べられた結論が長期にわたる家計の投資行動に対しても有効であるか否かは定かでない。そこで、研究の第二段階として、同調査の平成3年から18年までの6回分の調査結果を用い、購入意欲、予定保有期間に対する家計ごとの限界配当税率の影響を統計的に探った。その際、平成15年税制改正が行われたことを受けて、推計式にそれを表すダミー変数を加え、その影響も吟味した。まず、購入意欲の分析をプロビットモデルで行った。その結果、配当税率の負の有意な影響が検出された。また、配当税率軽減を除く税制改革の効果は正の有意な影響として検出された。次に、保有期間に関する分析においては、順序型トービットモデルの推計により、配当課税は保有期間を長びかせる効果をもつことが示唆された。以上の分析結果によれば、「貯蓄から投資へ」の政策遂行のために、配当税率を軽減させたことは正しい選択であったと判断できる。また、平成24年以降の配当税率の加重は株式投資の減退が起こることを予想させる。
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