研究概要 |
10の個別研究により,心と身体という2つの異なる領域にまたがる現象に関する理解がどのように発達していくのか,そこに生気論的因果がどのようにかかわるのかを検討した。本研究では,心と身体にまたがる現象として,心因性の身体反応(「心配事があってお腹が痛くなる」など)をとりあげた。研究1~3では,心因性の身体反応に身体的治療と心理的治療のそれぞれがどの程度効果をもつかについて,幼児・小学生・大学生に,判断を求めた。その結果,大学生は心理的治療と身体的治療を共に効果的と考える傾向があった(身体的治療の方が低い)が,幼児は心理的治療の効果を認めにくい傾向があった。幼児については,心因性の身体反応が起こる可能性を理解している子どもの方が,身体的/心理的効果を共に効果的と答える傾向が高かった。次に,心因性/身体性の身体反応がなぜ生じるかについて説明を求めたところ,幼児はどちらについても生気論的説明をあまり産出しなかったが,小学生は,一定程度の子どもが生気論的説明を産出した。大学生になると,身体性の身体反応については機械論的説明に言及することが多かったが,心因性の身体反応については生気論的説明にしばしば言及した。これらの結果は,生気論的因果が身体現象を説明するものから,心と身体をまたがる現象を説明するものへと発達的に変化することを示唆している。ただし,生気論的因果の中心概念である「活力」(vital force)については,大人だけでなく幼児も,それを心と身体にまたがる概念としてとらえていた。発達差が認められたのは,活力が生成されるメカニズムに関する理解だった。児童期半ばを過ぎると,活力は摂食のような身体的出来事だけでなく,遊びや気晴らしといった心理的出来事によっても生成されると考えられるようになった。最後に,生物学的現象の理解,生気論的因果の使用については,日常的に作物を栽培する経験を持っていることが関係していることも示唆された。
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