研究概要 |
概均質ベクトル空間のゼータ関数を超局所解析の立場から捉えることで,さまざまのゼータ関数に関する結果を導いた.実際には可換放物型の概均質ベクトル空間に関する試行的な計算を行った.そのほか,連携研究者によって超局所解析に関連する研究が行われた. 本研究で目的としてきたことは,(1)概均質ベクトル空間上の不変超関数の決定と解析,(2)ゼータ関数の関数等式と留数の研究への応用,(3)概均質ベクトル空間上の不変微分方程式の解析,の3点である.これらは概均質ベクトル空間の中の基本的な問題の中のいくつかのものである.その意義は次のようになる.以下,順を追ってその意義と研究成果を述べる. 不変超関数の決定と解析について我々はすべての基本的な既約概均質ベクトル空間について,その上の不変超関数の決定を目標としている.概均質ベクトル空間では,群の作用が強く働くので,その上の不変な関数は非常に強く限られている.最初に佐藤幹夫が概均質ベクトル空間についての理論を発表したとき,彼の動機とその目的は定数係数の偏微分作用素(特にラプラシアン)の基本解を多項式の複素べきから構成する方法の拡張をすることであった.ラプラシアンは偏微分作用素のうちでももっとも基本的なものであり,この解は調和関数として物理学の現象解析に重要な役割をはたす. この解を求める方法の一つに基本解を求めることがある.ラプラシアンで基本解を求める一つの方法が多項式の複素べきを利用することである.微分作用素を多項式の複素べきに作用させるとb-関数と呼ばれる複素べきのパラメータの多項式が複素べきにかかって出てくる.このb-関数がゼロになるところに注目すると,この点における複素べきはパラメータに関して極を持つ.したがって,この極のまわりでローラン展開を行うとその主要部には係数としていくつかの超関数があらわれる.この超関数の特徴は,もとの多項式がゼロでないところにサポート(台)を持つことで,これを特異超関数という.特に,もっとも重要な特異超関数はデルタ関数と呼ばれ,その台は1 点(ベクトル空間の場合は原点)だけに集中する.基本解とは,偏微分作用素を作用させたときに結果として現れる超関数がデルタ関数になる超関数のことである.この超関数が求まることによって,どのような関数であっても偏微分作用素を作用させたときの解を積分によって書くことができるようにな
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る(解の積分表示). 基本解を求める方法はいろいろあるが,この方法の特徴は多項式の複素べきという具体的なものから基本解が直接計算できることである.この目的のためには,多項式の複素べきに偏微分作用素を施すことによってそれがb-関数と複素べきの積になるような多項式を見出すことが必要である.佐藤幹夫はこのようなことがより一般の多項式に対してもできないか?と考えて模索を始めたのである.最初のころはいろいろな例で試していたのだが,半年ほど考えてもうまくいかなかったという.しかし,あるきっかけでラプラシアンの基本解の場合にうまくいくのは,2次の同次多項式が回転群の作用で不変であるからだことに気づいたという.したがって,群の不変性に注目すればよいが,どのような群の作用だと基本解の構成に適当であろうか.ひとつの答えが「概均質な作用である」という答えだった. このあと,ではどのような作用が概均質になるか,という問題になる.この分類が概均質ベクトル空間の研究の最初の課題になる.問題を複雑にしすぎないため,作用する群を半単純なリー群(複素代数群)として,有限次元ベクトル空間のうちにこの群を線型群として作用させて概均質になるかどうかを調べていけばよい.佐藤幹夫は最初にこの問題に取り組んで,「半単純性」と「既約性」を条件にして古典群の場合にほぼ分類を完成させた.その後,例外群に関しても木村達雄があとを引き継いで研究し,完全な分類が完成した. さて,分類によってどのような概均質ベクトル空間があるのかわかったが,それでは基本解を計算するにはどうしたらよいのか? 実は佐藤幹夫は基本解の問題にはあまり興味がなくなったようだ.まず分類によってどのような概均質ベクトル空間があるのか,が最初に考えた問題であったが,次には多項式の複素べきがリーマンのゼータ関数で関数等式を導くことに使われるものと同様の性質を持つことに注目した.リーマンのゼータ関数はもっともシンプルな1 変数の1次の多項式であったが,これは概均質ベクトル空間で言えば「相対不変式」にあたる.相対不変式のあるための十分条件として正則性を仮定すると,この相対不変式を使った偏微分作用素があって,この偏微分方程式に対して基本解が作れる,ということになる.一方で,ゼータ関数の関数等式を求めるということは,この複素べきによる超関数のフーリエ変換を計算するという問題と同等になる. ゼータ関数のほうが数学的に重要である,と考えればこの概均質ベクトル空間において相対不変式の複素べきのフーリエ変換の計算のほうがより重要である.このときリーマンのゼータ関数に相当するものがあるかどうかはまだ未発見だったが,それに先だつ「局所」ゼータ関数と考えれば,これが実数体上の局所ゼータ関数の候補であることは間違いがなく,予想される大域的なゼータ関数の関数等式もこのフーリエ変換から導かれるはずである.したがって,まずフーリエ変換がどのようになるかを研究する必要がある.これについては新谷卓郎との共同研究によって,それがパラメータの指数関数(の多項式)とガンマ関数を使って書けることがあきらかになる.また,新谷卓郎とともに大域的なゼータ関数にあたるものがどういうものか,も明らかになった.ここではベクトル空間内の格子とそれに作用する離散群に注目することが必要になる.これがわかってしまうと,どういう条件で大域的なゼータ関数が作れるかということもわかる.この佐藤幹夫を新谷卓郎の研究によって「概均質ベクトル空間のゼータ関数」の概念がはっきりと定式化された.またその整数論的な意味もはっきりした.応用については未知数であるが,概均質ベクトル空間という表現論的なものから整数論への関連が出てきた. 実際の研究においては,これらの周辺の計算を行ってきた.とくに,基礎的な概均質ベクトル空間と群が簡約でもなく表現が既約でもない場合の概均質ベクトル計算をきちんとすることを中心に計算を行ってきた.実際の計算においては,主に既約な概均質ベクトル空間とに関して若干の進展があったが未解決の問題も多いままである.しかし,少しずつではあるが着実に進んでいる.そのほか,数式処理を利用して微分方程式のグラフィックなどの研究を行った.また,連携研究者はそれぞれの分野でb-関数などの研究を引き続いて行っている.最後に,放送大学むけに微分方程式に関するテキストを執筆した.これは,微分方程式の初歩的な講義の教科書である.ここにおいて,従来の微分方程式の入門書がおもに常微分方程式の解析に偏っていたのを,偏微分方程式まで視野を広げることを目的とした.放送大学の講義として平成23年度より放送が始まる. 隠す
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