研究概要 |
火口直上に設置した広帯域地震計を含む稠密地震観測網の観測により,2004年9月の浅間山噴火に先行する地震活動の中に,噴火に先行する特異な地震・微動が発生していることが明らかになった.同様な火山性地震・微動は浅間山を含む他の安山岩質火山でも過去に観測されており,単に今回の噴火活動に限られたものではなく安山岩質火山におけるより一般的な現象と考えられる.そこで,本研究では,非線形な波動特性を持つ微動の観測データから,その背後にひそむ微動励起の数理モデル及びその制約条件の導出を目指す.この数理モデル及びその制約条件は微動発生の物理プロセスを解明する上での大きな知見を与える.さらに,個々の微動発生の物理プロセスについては,それらが発生する場についての物理環境を考慮して個別にモデル化を進めることが可能となる. 2004年6月23日には非線形な波動特性を持つ微動が約6時間おきに3個発生した.先ず,これらの3つの微動を対し,時間遅れ座標系への埋め込み写像を実現するための最小の埋め込み次元の推定とGP法による相関次元推定,及びサロゲートデータ解析による波動の非線形性検証を行った.微動の高周波成分はかなりランダムな特性を有しているため,微動の低周波成分に対して埋め込み次元と相関次元の推定を行った.埋め込み次元を求めるための最適な時間遅れ値の推定は,高次の自己相関係数を用いる方法を採用し,3つの微動に7~8次元というほぼ同一の最小埋め込み次元が推定された.また,この埋め込み次元を使って再現したアトラクターから求めた相関積分は,1オーダー以上の範囲で同一の傾きを持ち,安定に相関次元を推定することが出来た.さらに,この解析手法の妥当性を検証するため,Julianの非線形微動モデルを使って微動をシミュレートし,その中のある1次元のデータから最小埋め込み次元と再構成したアトラクターから相関次元の推定を行ったが,それらの値が元の力学系の次元と合致しこの手法が有効であることを確認した. KM_2O-Langevin方程式論に基づく非線形予測手法を用いるという別のアプローチからの解析も試みた.再構成状態空間へのアトラクター再構成による解析で用いた微動に対しても,非線形項を加えたKM_2O-Langevin方程式論に基づく非線形予測を試み,ある特定の非線形項を加えたときに予測値が大きくなる事を明らかにした.また,KM_2O-Langevin方程式理論を使った地震波初動や孤立した位相を同定するアルゴリズムを作り,実際の観測データに適用して良好な結果を得た.さらに,微動の周波数構造を解明する目的でKM_2O-Langevin方程式論を拡張した「平均散逸スペクトル」という新しい解析手法を開発し,四国西部に発生する極めて微弱なシグナルである深部低周波微動にこの手法を使うことにより,初めて1Hz~5Hzの間に0.5Hz間隔のスペクトルのピークを持つという微動の周波数構造を明らかにした. 当初,本研究計画では,非線形な波動特性を持つ微動のみを解析対象として考えていたが,研究の進展の中で,継続時間の長い非線形な長周期地震も,微動と同様な非線形なダイナミクスに関する制約条件を持つことが明らかになった.そこで,非線形な微動・長周期地震を統一的に説明する数理モデルの検討を行い,火道浅部での流体の噴出率係数をコントロールパラメータとした数理モデルで,微動と継続時間の長い長周期地震が統一的に説明できる可能性を示した.対象とした非線形な微動と長周期地震は一見非常に異なる波形を示しているが,周期1秒以上の長周期成分に注目して,時間遅れの埋め込み座標系を用いた再構成状態空間へのアトラクター再構成による力学系システムの次元推定を行うと,同じ範囲の次元を持つ非線形ダイナミクスであることが明らかになった.そこで,推定される次元範囲の最小次元の元で,すき間流モデルとコントロール・バルブモデルをベースに検討を行った結果,微動・長周期地震両者の波形的特徴を説明できる流体の噴出率係数をコントロールパラメータとした数理モデルの構築に至った.流体噴出率係数を変化させたときのバルブの動きと微動・長周期地震の波形を比較をすると,バルブの動きは観測された波動特性をきわめてよく再現している事が確認できた.この数理モデルが,本申請の研究課題で基礎と成る数理モデルと成っている.
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